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5話、無力

我々がルティと出会ってから既に1週間
徐々にではあるが、南へと下っている

「このままいけば、後5日で最南端か・・・」

そう、最南端まで着いたらそれ以上南に行きようがない
それまでに戦争が終わることは多分ない

だが、少しでも生き延びれる可能性を信じて向かうしかないのだ

ブゥゥゥゥン

飛行機の近づいてくる音がする
もう、倭国側にはこの島での戦術用戦闘機は残っていない
ということはこの音はイディア国の戦闘機である

「く、みんな急げ!!」

私達は民間人を誘導する
以前までなら、もっとそれぞれが自分勝手に動いていたが
今は統率も取れてきている、そのお陰ここ数日は負傷者は何名か出ているものの死ぬということはなかった

「大石さん、小岩さん、他の方々をお願いいたします」

ルティが一人前に躍り出る

「ルティ、いくらなんでも無茶だ!!」
「でも、私以外にできる人はいませんから」
「お姉ちゃん、私も手伝う!!」

ティリカもルティと同じく前へと出ようとするが、それをルティが引き止める

「ティリカはケガを負った人達の手当てを、私のほかにはあなたしかいないのだから!!」
「でも・・・」
「ティリカちゃん、ここはルティに任せるしかない」
「う、うん・・・」

自分はティリカを連れ防空壕へと走る
戦闘機がいつもとは違いかなり多い、確実に我々を殺すつもりできている

「これからはあなた達には見せられませんから・・・」

ルティは何かを小声で言ったみたいだが、自分には聞き取れなかった

ダダダダダダッ!!

辺りは爆弾の投下により火の海となり、機関銃の音が絶え間なく続く
戦闘機の狙いは我々よりも、ルティに定めている
当然といえば当然だろう、裏切り者で特殊な力を持つ彼女
即死以外ならどんなケガでも治してしまう、流石にちぎれた腕や足は再生しないが
ルティやティリカを殺してしまえば、それをできる人はいなくなる
それだけに他の者を見逃してでも殺すつもりなのだろう

「急げ!!みんな遅れるなよ!!」

自分達は防空壕に向かってひたすら走る
逃げることしかできない我々にとってこれしかないのだ

「くそ・・・」

胸の中の苛立ちを抑えるのに必死になる
この場においてあまりにも無力な自分が悔しい

何とか防空壕には着くものの、辺り一面燃え盛っており、まるで夜とは思えない

「無事で居てくれよ・・・」

自分にはルティの無事を祈るしかなかった




「みんな、無事に逃げたようね・・・」

私は空を覆いつくす飛行機を眺める

「私を殺す為だけにこれだけの数を使ってくるとはね」

彼女は少し笑みを浮かべる
まるで、これから起こることが楽しみであるかのようであった

「ここからはティリカにも見せられないからね」

私は手を両開きにし、その場に立ち尽くす

「闇の精霊よ、全てを等しき闇に、光照らすことのない闇を、その力を介抱し全てを飲み込まん」

詠唱が終わると辺りは燃えているというのに完全な闇に閉ざされる
もちろん、戦闘機も目視不可能だ、

ブウウウウウンン

ドガァァアアアアン

何かと何かがぶつかって爆発する音
それは金属音だったり、岩の音だったり様々だ

「ごめんなさい・・・」

私は殺してしまったイディア国の兵士達に謝る
殺したくはない、けれど殺さなければ私達がやられる

私だけが死ぬならこの命幾つでも捧げよう
でも、私にはまだ守らなくてはいけないことがある

「ハッ!!」

ダダダダダダ!!

暗闇に響く機銃音、多分乱射しているだけだとは思うが
しかし、それだけにどう飛んでくるか分からない

「この音は・・・まずい!!」

私は瞬間的に避けようとする

ダンダン!!

腕が千切れそうなくらいだった、何発か腕にもらったようだ
いや、正確には掠めただけだが、それくらい威力があるのだ

「痛みがない・・・か、かなり深いわね」

私は暗闇の中、布を引きちぎり自分の腕に巻く

「引き上げるまでは逃げるわけにはいかないわね・・・」

私のこれはそこまで大きな範囲をカバーできるものではない
下手に動くと見える範囲で狙い撃ち去れる可能性があるのだ

ブゥゥゥゥゥゥゥゥン

戦闘機の遠ざかっていく音がする

「何とか・・・か・・・」

私は血が流れ出る腕を押さえながら防空壕へと向かった

「そろそろ、正念場か・・・」

彼らの無事を確保するまでは絶対に死ねない
例え、この身が灰になろうとも、絶対に守ると誓ったのだから
by meruchan0214 | 2006-04-19 00:53 | カナシミノウタ


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