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37、有る者と無い者

静けさだけが支配する闇の中
考えもしなかった自分の事、いや、考えようとしなかっただけなのだ

「家族か・・・」

隆泰さんからもらった資料を見る限りでは、
私の本名は的場 陽子、5人兄弟の一番上の長女
下には妹が二人、弟が二人、後は両親と暮らしていた
私立の高校に通っていたが、5ヶ月ほど前に下校途中で行方不明になった

ということらしい

正直、資料だけ見ても実感わかない
妹の牧子を見ても、懐かしい感じがしただけだ、
嬉しいとかそういった感情は一切なかった

「もしかしたら、妖になって感情が欠落してきたのかな・・・」

自分が妖になって、最初はとまどった
だけど時が流れて、妖に慣れていくにつれて、自分が昔の事を考えなくなった
むしろ、今までが充実していたからこそ、考えなかったのだろう

「どうするべきかは、自分か・・・」

お互いの為を思うなら会わないほうがいい
本来なら私は死んでいる人間なのだから
けれども会ってみたい、会えば昔の事が思い出すかもしれない

そうすれば、また家族に会えて喜べるかもしれない
再会できたことに感謝できるかもしれない

その気持ちが私の中を駆け巡る

「でも、私はもう人間じゃない・・・、妖なんだよ・・・」

人間ではない、これだけが私が家族に会うことを恐れる理由だ
元家族がバケモノになる、そんな恐ろしいことが考えられるだろうか
ましてや、今まで行方不明だったのだ信じられるはずが無い

「はぁ・・・」

私はベッドに横たわる
会いたいという気持ちと会ってはいけないという気持ちがぶつかり合う

『陽子お姉ちゃん!!』

今日の牧子の声がやけに耳に残っている
消そうと思っても消えない、むしろ、心が切なくなってくる

「感情が欠落しているわけじゃあないのね・・・」

感情が欠落していないようで少し安心したが、
それでも結局は不安だらけなのだ、
多分、明日も牧子は来るだろう
その時にどんな顔をすればいいのか分からない

私は既に人間には無い力を持っている
元人間とはいえ既に死んでいる肉体
隠しきれる自信が全く無い

だが、会いたいという気持ちが強くなっていく
考えたくないけれど、どうしても考えてしまう
眠れない夜が続く

まるで永遠に続くかのようだ

「会えば・・・、分かるかな・・・」

今まで失くしていた気持ち
だんだん強くなっていく、自分が何者かである以前に
家族として会いたくなってきていた

「明日・・・、もう会えなくなってもいい、会えば何か分かる気がする」

思いをつのらせていく

人を無くし、妖を有する者の代償なのか・・・

静けさは何も答えてはくれない
by meruchan0214 | 2006-04-25 00:13 | 妖の調べ


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