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8陣 監視 怒り

少女、メルは特に抵抗するわけでもなく、素直についてきた
竜哉は内心ホッとしていた、メルとは戦ってはいけない、そう感じていたからだ

「文明の発展の差ってやつね~」

メルは辺りにあるもの所構わず珍しそうに見て回っている
どうやら別の世界からやってきた、というのは本当のことみたいだ

「貴方、何者なの?」
「私は呼ばれてこの世界にやってきたモノよ、私の探し人がここの世界に居るから」

棗の質問に何一つ戸惑いもせず答えるメル
VACGから降りて分かった事であるが、不思議な感覚以上にこの子には逆らえないという気が自分を包んでいた

「でも、いくら自分達の住んでいるところが壊されているからといって、怯えている子まで倒そうとするのは、ちょっと共感できないな」
「そんなもの分かるわけないじゃない」
「それは分かろうとしている努力をしてないから、貴方達は普通の人間とは違う力があるんでしょ?違う?」

メルに指摘されて棗は黙ってしまった、竜哉は自分が普通とは違う力があると言われてもピンとはこなかったが、棗は心当たりがあるようだった
見た目こそ子供でしかないのに、言う言葉は全てこちらを見透かしているようだ

「とにかく、室長にこれからの判断をしていただきますから、よろしいですね」
「いいよ、どうせ行くあてもないし、こういう組織に頼った方が私の分からない世界では手っ取り早いしね」

メルは棗の言葉に従う、正確には従うというよりはもっとも合理的に動いているだけである

「ピルルルルル」

メルに抱かれたDEPSが鳴き声をあげる
こうしてみると、ペットのようにしか見えない、よくよく見ると愛嬌もないこともない

「そういえば、さっきDEPSに何をやったんだ?」
「毒素を取り除いてあげただけ、元々この子のサイズはこのくらいよ」
「え、DEPSって元々巨体じゃあないのか?」
「さあ、そのDEPSって言う魔物がどういう枠組みなのかは、まだこの子しか見て無いから何とも言えないけど、少なくともこの子は外部的な要因であんな巨体になってたよ」

確かにDEPSといっても色々な種類が存在する
自分達の想定外の生物をDEPSと呼んでいるに過ぎないのだ

「この子に名前つけてあげないとね」

メルはDEPSを抱えあげて名前を考え始めた

「ん~~~~・・・」

なかなか名前が思いつかないらしく、かなり悩んでいる

「ねえ、君」
「え、俺?」
「この子に名前付けてよ」

結局思いつかなかったらしく、メルは竜哉に聞いてきた

「俺は竜哉って名前があるっての、まあ、それにしても名前か・・・」
「うん、じゃあ、竜哉君名前付けてあげてよ」
「んじゃ、ミスティってのはどう?」

その名前を聞いたメルは一瞬ピクッと眉を吊り上げたが、すぐに元に戻った

「悪いかな?」
「いや、竜哉君がつけるならいいよ」
「よし、今日から君の名前はミスティだよ」
「ピルピルピル」

ミスティは嬉しそうな声をあげる、メルの言葉を理解しているのだろうか

「二人とも、室長が着ましたよ」

軍服に身を包んだ、背の高い男、竜哉は何回も見た事があるが、その優しそうな顔の裏側にはどんなことを考えてるか想像もつかない

「君が今回の騒動で現れた少女か」
「少女じゃなくて、私の名前はメル・クローバー」
「ああ、それは済まなかったね、じゃあ、メルさん」
「何」
「申し訳ないが君がどこの誰で何者であるか分からない以上勝手な事をしてもらうと困る」

得たいの知れないのは仕方が無い、何にせよ彼女は普通ではない

「それでどうするおつもりですか?」
「君には我々から何人か監視をつけさせていただく、それにそのDEPSは我々に預けていただきたい」

監視の部分を聞くまでは普通であったが、DEPSを預かると言った途端にメルの表情が厳しくなる

「嫌よ、監視をつけるのは別に構わないけど、この子を渡すのは嫌」
「だが、それはいつ我々の脅威になるか分からないんだ、研究の為にも渡してほしい」

室長の言葉にメルが怒ってきているのがはっきりと分かる
口では上手く言い表せないが、彼女から威圧感というものが湧き出てきている

「この子は無害よ、絶対に渡さないし研究もさせない」

彼女の言葉は棘を刺すというだけでは済まなかった
良く場の空気が悪くなると言うが、確実に彼女の周りの気温が下がっている
最初は彼女からでる雰囲気みたいなものかと思ったがどうも違うみたいだ

「あの、俺がこんなこと言える立場じゃないと思いますけど、彼女、メルの言うとおりにしたほうがいいと思います」

このままだとメルはこの場所を破壊しかねない気がした

「・・・分かった、その代わり君にメルさんの監視をお願いしたい」
「俺がですか!?」
「もちろん、生活の費用は全てこちらで出す、それに棗と同じクラスだと聞いている、連絡も取りやすいだろう」

厄介者は近くに置いておきたくないということだろうか、明らかにメルの性格からして室長には反発しそうだ

「私もそれが一番いいな~」

メルも室長の言葉に同意する、何が一番いいのか分からないが竜哉のところがいいらしい

「君には自衛隊直通の無線機器を渡しておこう」

室長は竜哉に無線を手渡した

「何かあったら、直ぐに連絡をくれたまえ、できる限り早急に対処しよう」

室長は話が終わるとさっさと竜哉とメルを部屋から追い出した
室長の気持ちは分からないでもないが、メルの気持ちも分からないでもない
竜哉はどっちの言い分も正しいとは思ったが、無害なら研究とか使われるよりは可愛がられる方がいいと思った

「それじゃ、これからよろしくね」

メルは先ほどまでの怒りの表情はどこかいったような笑顔で話す

「あ、ああ、でも親に何ていおうか・・・」
「それだったら大丈夫、大丈夫」

メルは明るく話す、こういう明るい笑顔を見ると年相応の子供にしか見えない
こうして、謎の少女、メルは竜哉の家にあがりこむことになった
by meruchan0214 | 2006-11-16 23:50 | 竜の翼 ハイシェント


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