misson1 新たなる幕開け

ヴェルゼやアースライン、そしてコンピューターノルンの戦いから20年。
人々の記憶から戦争があったということが薄れ掛けている頃。

前戦争の英雄達は各々の役目につき、ここ20年間は平和な時が続いている。
大型生活艦ウロボロスもまた平和な時が続いていた。

「行ってきま~す」
「アリシア、気をつけていきなさいよ」
「分かってま~す」

彼女の名前はアリシア・ルウカ、前戦争のウロボロス軍、フリス・ルウカとアコナ・グルリアとの間に生まれた子供である。
フリスとアコナは戦争終結後、親善大使として、アースライン、ヴェルゼとの間に入り、平和に尽力を尽くしてきた。

「お母さんも心配性なんだから」

ウロボロスに住んでいる人は地球の小さな小国ほど居る。
アリシアもその中の一人だった。

アリシアはウロボロス内にある学校に通っている。
ウロボロス内には一校しか存在しないが、小中高、更には大学、大学院まで付属している。
その敷地は広大でウロボロスの1フロア全て使っている。

「おはよ、アリシア」
「おはよ~」

いつもと変わらない学校生活、平和な時が既に当たり前となっていた。

ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・

不意に激しい揺れを感じる。
小惑星にでも追突したのだろうか、ウロボロスは武装を持たない。
しかし、そういった衝突を回避するために、常に周囲にバリアを張っており、少数だが機兵と呼ばれるロボットが警備に当たっている。

「わっ!!」

激しい揺れはそれ一回だったが、辺りがとても騒がしい。
少しすると艦内放送が流れ始める。

「緊急事態です、居住区に居る方は至急各自の家に戻り、待機し直ぐにシェルターへと逃げる準備を始めてください」

緊急事態、訓練は何度かやらされていたが、訓練ではないみたいだった。
アリシアや他の人達は訳も分からず、家へと帰らされた。

「一体何があったんだろう・・・」

アリシアは家に戻るが、人の気配がない。
自宅待機でシェルターに避難ならば、両親も家に居るはずである。

「お父さん達、どうしたんだろう?」

アリシアは家の中を探し回る。
すると、いつもとは違う光景が目に飛び込んできた。

「何・・・これ?」

父親の部屋の一部がドアになっており、そこから先には別の通路がつながっていた。
今まで何度も父親の部屋に入ったことはあるが、これを見たのは初めてだった。

好奇心旺盛なアリシアは『いけないかな?』と思いつつも中に足を踏み入れた。

「ウロボロスのどの辺りなんだろう?」

アリシアは見知らぬ廊下を歩く、緑や一般の建物が並ぶ居住区に比べ、艦の中を実感させる造りになっている。

ダダダダダダ!!

数人の人が廊下を走っていく、凄く慌しいようだ。

「あれって、軍服だよね・・・、前にお父さんとお母さんに見せてもらったことあるや」

両親は元々はウロボロス軍でトップクラスの実力を持つ機兵乗りだ。
アリシアの物心ついたときにはほとんどそういった事には縁はなかったはずだった。

「誰だ!!ここは居住区の人間が入るところじゃないぞ!!」

見つかった、アリシアはビクビクしながら後ろを振り向く。
しかし、アリシアも声をかけた軍人もお互いの顔を見て驚いた。

「お父さん!!」
「アリシア!!」

ほぼ同時に声が出る、父親の部屋の扉は軍部に続いていたのだった。

「どうやってここまで来たんだ?」
「お父さんの部屋に扉が・・・」

アリシアが言うと父親はしまったと言うような顔をした。
自分のミスだと言うことが分かったのだろう。

「フリス!!早くしないと!!って・・・アリシア・・・」

直ぐ後ろから聞こえたのは母親の声、父親も母親も軍服に袖を通している。

「私の部屋の扉から来たらしい、ちゃんと閉まってなかったようだな」
「そうなの・・・、でも今は急がないと・・・」
「ねぇ、緊急事態って何があったの?こんなの初めてだし・・・」

アリシアが聞くと、母親は肩にそっと手を伸ばす。

「大丈夫、何でもないから。直ぐに戻るからね」
「でも・・・」

アリシアは不安で胸がいっぱいだった。
生まれてから初めての出来事、何よりも軍服に身を包んでいる、両親を見るのが怖かった。
優しい言葉をかける母親が直ぐにでもいなくなってしまいそうだった。

「アコナ、フリス!!早くしなよ!!」
「了解、直ぐ行きます」

60台くらいの目つきの鋭い女性、まだまだ元気そうに見える。
着ている服からしてかなりこの中で偉い人に思えた。

「その子は?ここは民間人立ち入り禁止だぞ」
「艦長代理・・・申し訳ないです、私達の娘で・・・」
「そうか・・・、とにかく二人とも急いでいくれ」

それ以上は何も言わず、急ぐフリスとアコナを見送った。
そしてアリシアへと向きを変える。

「あの・・・、何があったんですか?」

恐る恐るアリシアは聞いてみる、その姿は威厳に満ち溢れており、目で見られただけでも圧倒される。

「知りたいと思うなら止めはしないが・・・、今までの生活はできなくなるかもしれないよ?」
「それでも・・・知りたい・・・です」

半分本心で半分は知りたくはなかった。
けれど、両親が何をやっているのか知りたかった、自分だけ知らないというのが許せなかった。

「それじゃあ、ついてきな」

艦長代理の後をついていく、大きな扉を抜けた先は大きなブリッジになっていた。

「ジョニカ艦長代理!!機兵出撃準備整いました!!」
「ようし、迂闊にシールドの範囲外にでるんじゃないよ!!」
「了解!!」
「アコナ、フリス、頼んだよ!!」

艦長代理が声をかけると、画面にアコナとフリス、両親の顔が映し出された。

「了解」
「分かりました」

次々とウロボロスから出撃する機兵。
アリシアは教科書でしか機兵を見たことがない。
その上、この緊迫した状況、ただ事ではないというのは素人でも分かる。

「正体不明機、戦闘エリアに到達します!!」
「相手の正体が分かるまで、深追いはするな!!」

オペレータの声や艦長代理の声が騒々しくなるくらい交錯する。
アリシアの目の前で起きているのは戦争だった。
目の前で花火のように起こる爆発。
どちらかは分からない、だけど今その爆発で人が死んだかもしれないのだ。

「お父さんやお母さんがあの中に・・・」
「大丈夫だ、あの二人は前戦争の英雄だからな」
「英雄・・・?」

軍人だったという事は二人から聞いていたが、英雄とまでは聞いたことはない。
ましてや、教科書には一切その事についてはふれられていない。

「だが、現実に人の命が今散っているのは確かだけどな・・・」

ジョニカ艦長代理は少し悲しそうな顔をするが直ぐに厳しい表情に戻る。

「艦長代理!!今までの機兵のデータに一致するモノがありません!!」
「何だと!?」

オペレーターの声に全員が驚きを隠せなかった。

「ジョニカさん、こいつら機兵とは違うみたいだぞ」
「ええ、似て非なるモノっぽいわ」

ついで入ってくるフリスとアコナの通信、ブリッジには動揺のざわめきが起こる。

「慌てるな、正体不明だとしても倒せない相手ではない!!」

ジョニカ艦長代理の言葉通り倒せない相手ではない。
正体不明と言えども、全く武器が通じないというレベルではないのだ。

「お父さん・・・お母さん・・・」

今のアリシアには二人の無事を祈るしかなかった。
戦局はウロボロス側が優勢だ、少しずつですが押していく。

「戦力的には上か・・・」

ジョニカ艦長代理が呟いたその時だった。

「何かが物凄い速度でやってきます!!」
「直ぐに解析しろ!!」

アリシアは何故かそれが怖いと感じた。
ずっと遠くにいるはずなのに、実際に戦っているはずではないのに。
今やってくる何かが怖いと感じ取った。

「どうした?大丈夫か?」

ジョニカ艦長代理が心配して声をかけてくるが、アリシアの震えは止まらない。

「艦長代理!!ゲイドチームが壊滅状態です!!」
「何だと・・・」
「解析完了、分析結果は・・・ハイシェントです」

辺りが騒然となる、当然といえば当然だ。
ハイシェントと言えば、前戦争でウロボロス軍最強の機兵として活躍した。
それが今敵として前に立っているのだ。

「しかし、こちらに残っているハイシェントとはややデータが違うようですが・・・」
「だが、ハイシェントだということには間違いないんだろう?」
「はい・・・」

ジョニカ艦長代理は明らかに悔しそうな顔をした。
たった一機の機兵の出現によって、一気に劣勢に立たされたのだ。

「敵増援部隊確認!!」
「不味いな・・・、ヴェルゼとアースラインに救援信号を!!」
「了解!!」

20年以上前の機兵とは言え、その圧倒的な戦力は健在だった。
この20年で機兵自体の性能は飛躍的向上した上で尚こちらの機兵よりもスペックが高いのだ。

「艦長代理、私とアコナであれを止める」
「・・・、頼むぞ・・・」

ジョニカ艦長代理は二人に頼むしかなかった。
実際にハイシェントに乗ったことのある人間ならば、対処法も分かるはず。
更にフリスとアコナの操縦技術はウロボロス内でもトップクラスだ。

「お父さん、お母さんダメだよ!!」

アリシアは両親を止める、しかし二人は止まるわけにはいかない。
大きな不安がアリシアを更に震えさせた。

「勝てないよ、あんなのに・・・」
「アリシア・・・?」

ジョニカ艦長代理はアリシアの言葉に疑問を持った。
機兵の事は何も分かっているはずがないのに、出た言葉。
まるで相手がどんな奴なのか感じ取っているみたいであった。

「艦長代理、もう一機来ます!!」
「く、流石にこれ以上は持たせられんぞ・・・」

一機でも危険な機兵が二機になったら手をつけられなくなる。
ジョニカ艦長代理もあせりの表情が浮かぶ。

「!!、通信来ます」
「何?通信回線開け」

通信を開くと、女性の声がブリッジに響く。

「増援が来るから、後5分持ちこたえなさい。アイツは私が何とかする」
「その声は・・・」

戦場に乱入してきたもう一機のハイシェント、それは自分自身と対峙するかのようにハイシェントの前へと姿をあらわした。

「ハイシェントが・・・二機?」
「誰が操縦しているの?」

アコナとフリスは驚きを隠せない。
しかし、お互いが敵同士であるということは直感した。

「フリスさん、アコナ、ここは任せなさい」
「リシェルさん!!」

その言葉に二人は驚きと喜びが混じったような声をあげる。
アリシアももう一機のハイシェントが来たことにより、かなり不安は薄らいでいた。

ハイシェント同士の戦いはほぼ互角、パワーもスピードもどちらも決め手にかけている。
だが、味方にハイシェントが現れたお陰で味方の士気がぐっと上がった。
何よりも乗っている人物がジョニカ艦長代理やフリス、アコナにとって喜ばしい人だった。

「後方から援軍です、アースラインとヴェルゼです!!」
「よし、一気に蹴散らせ!!」

援軍が到着したことに形勢不利とみたのか、正体不明機とハイシェントは戦線を離脱する。

「何とかなったな・・・」

安堵の息をつくジョニカ艦長代理。
アリシアも敵が撤退したことにより、不安は完全に消えていた。

「ハイシェントから再び通信来ます」

先ほどは声だけだったが、今度は映像つきでウロボロスに通信が入った。

「無事だったようね、ジョニカ」
「リシェル様!!」

画面に映った女性は20代前半の女性、リシェルと呼ばれていた。
熟年者達は全員彼女の事を知っているみたいであった。

「ウロボロスに帰還しても大丈夫かしら?積もる話はそれからにしましょう」
「はい!!」

ハイシェントはウロボロスに収納される。
そして、ブリッジにアリシアにフリスやアコナ、ジョニカなどクルー全員が集まっていた。
その前に立っているのはリシェルと呼ばれた女性。

「また、ここに立つ事になるなんてね」
「リシェル様・・・、お帰りをお待ちしてました」
「私はもうここの艦長じゃないよ」

艦長ではないという言葉に驚くアリシア。
どう見てもそんな年齢には見えない。

「ですが、ウロボロスの艦長は貴方しか居ません」
「ジョニカが今までやってきたのでしょう?」
「それは、リシェル様が帰ってくるまでの間で・・・」

あの威厳に満ちた艦長代理があれほどまでに下手に出ているのに驚く。
少しあっただけだが、それほどまでにリシェルという人を尊敬しているのだとアリシアは感じる。

「リシェルさん、受けてあげてください。皆、待ってたんですよ、絶対帰ってくるって」
「そうですよ、皆信じてたんですよ」
「フリスさん、アコナ・・・」

ジョニカ艦長代理以外にもフリスやアコナの言葉に戸惑うリシェル。
しかし、艦長代理やフリス、アコナ以外にもリシェルに戻ってきてほしい人はたくさん居た。

「分かりました。ですが、指揮は今まで通りジョニカが行ってください」
「はい」
「以上です。後でジョニカ、フリスさん、アコナには個人的に話があります。いいですか?」
「分かりました」

リシェルの話が終わると皆は各々に解散する。

「リシェル様の部屋はそのままにしてあります」
「ありがと、じゃあ私の部屋でね」

リシェルはその自分の部屋へと歩いていった。

「ねえ、お父さんあの人どういう人なの・・・?」
「このウロボロスを作った人の一人で艦長だった人、20年前から行方不明だったんだ」
「え、でもどう考えても20年前っていったら子供じゃん」

フリスはその言葉を聞くと顔から笑みがこぼれる。
アコナやジョニカもそれを聞いて少し笑っている。

「あの人は特別だからな」
「特別って・・・?」
「一緒に行けば分かるよ、来るか?」
「うん」

アリシアはアコナ達と一緒にリシェルの部屋へと向かった。

「失礼します」
「どうぞ」

アリシア達が中に入ると、懐かしそうにリシェルが部屋を見ていた。

「本当にあのときのままなのね」
「ええ、そうですよ」
「立ち話じゃなくて、座って話しましょうか」

リシェルはアリシア達を座らせる。

「その子はフリスさんとアコナの?」
「ええ、そうです。アリシア」
「あ、私、アリシア・ルウカって言います」

アリシアが少し硬くなりながら挨拶をすると、リシェルはそれをただにこやかに見ていた。

「よろしくね、アリシアちゃん」
「こちらこそ、よろしくお願いします」

不思議な雰囲気を纏った女性だと感じた、見た目こそ若いが見た目とは不相応な落ち着き方。
それに自分たちとはどこか違うとアリシアは思った。

「さて、まずは私がここに来た理由から話しましょうか」
「ええ」

リシェルはゆっくりと語りだした。

「私の体は確かに爆発に巻き込まれて失ったわ、それと同時に全て消えるはずだった。でもね、お節介が一人居てね」
「お節介?」
「モイライが私とノルンのバックアップを取っていたのよ、最後の時までのね」

アリシアには何の話をしているか分からないが、モイライは聞いたことがある。
今、アースラインで活躍しているスーパーコンピューター。
これからの人類がどうあるべきかを常に計算し続けていると言う。

「でも、バックアップしてあったなら何故20年も?」
「私はもうここに戻ってくるつもりはなかった、私の役目は終わったはずだった」
「はずだった?」

リシェルの言い方はまだやるべきことが残っていたみたいだった。
しかもそれは想定外であったみたいだ。

「まさか・・・」
「ええ、あなた達も見たでしょ。もう一機のハイシェント」
「あれって一体?」
「順を追って話すわね、まずもう一機のハイシェントの事」

リシェルはフゥと溜息をつき、再び口を開いた。

「私たちがウロボロスを作って、すぐの初めての機兵。プロトタイプのハイシェントなの」
「プロトタイプ?」
「ええ、だけど理論的に余りにも危険だったから。私達は破壊することを決めた。けど、それを良しとしなかった人間が居たの」

今まで以上にはっきりと言う口調。
決意の強さが現れているみたいだ。

「その良しとしなかった人間は、プロトタイプのハイシェントを奪って宇宙に逃げた」
「でも、それって170年も前の話ですよね?」
「そう、私達はそれを追って破壊したはずだったんだけど」
「今になって再び現れたと言うことですね」
「その通り、そしてアレを動かしているのがあの人なら私はそれを止める責任がある」

少し悲しそうな表情をするがすぐに元に戻った。

「あの人がああなったのは私の責任、妻として止めなくてはいけないから」

その言葉にその場に居た全員は驚いた。
話にも驚いたが、結婚していたと言うことにもっと驚いたのだ。

「あら、言ってなかったっけ?」
「初耳ですよ!!」
「まあとにかくね、そういう意味で私は止めるために来たの」

アリシアには分けの分からない話だ。
ただ、リシェルが見た目とは裏腹に凄く年を取っているのが分かった。
聞いている話だとどうもロボットっぽい。

「とりあえず、アリシアちゃんの目が点になってるから。ちゃんと説明しましょうか」
「あ、お、お願いします」

リーシェは今までの経緯・・・、以前の戦争の事を要約して話してくれる。
自分自身が元々人間で記憶などを電気信号に変えて、ロボットの体に移植していること。
ノルンやモイライなどのスーパーコンピュータの事など話してくれた。

「というと、リシェルさんは、今200歳くらい?」
「そうなるかな」
「はぁ~・・・凄いですね」

ある程度説明が終わると、再びリシェルは会話を元に戻す。

「それと、今回現れた敵だけど」
「あれは一体?」
「太陽系ではない所から来ているわ」
「なるほど・・・」
「文明レベルはアッチの方が上、操縦技術は下の中って所らしいわ」
「らしいわって・・・、疑問系なんですね」
「ノルンもそこまでは分からないわよ、初めて見たから」

ノルン、先ほど説明してもらった全人類に対して宣戦布告を行ったコンピューター。
20年前の戦争でリシェルもろとも爆発したはず。

「ノルンも修復したんですね」
「ええ、今は人を裁くつもりはないらしいわよ」
「今は、ですか・・・」
「まあ、ね。でも、味方ならあれほど強力なサポーターはいないけどね」
「そうですね」

敵の敵は仲間といったところだろうか。
正体はこの星間ではなく、更にスケールの大きい話だ。

「もう、何がなんだか・・・、これから戦争がまた始まるって事ですか?」
「そう・・・なるかな、私一人で済む問題なら良かったんだけど・・・」

両親達の懐かしい仲間が戻ってきてくれたことは嬉しいことだと思う。
けど、戦争が始まると言うことにアリシアは大きな不安を抱え始めていた。
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by meruchan0214 | 2007-10-04 21:01 | 守護機兵 ハイシェント2


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