misson6 過去遺産

アリシアが眠りについている頃、ウロボロスの格納庫ではリシェルが一人、ハイシェントとエルブラストの前に立っていた。

「ごめんね、辛い思いさせて」

リシェルがハイシェントとエルブラストに話しかけると、まるで実物がそこにいるような精巧なグラフィックスが現れた。
それは二人の女の子でどことなくリシェルに似ている。

「ううん、平気だよ。お母さん」
「そうだよ、ルピナの言うとおり。例えお父さんでも許せないことは許せないから」

二人の女の子はリシェルに心配かけまいとわざと元気そうな声を出している。
それに気がついているリシェルであったが、わざと知らない振りをしていた。

「ありがとうね。ルピナ、ナミア」

ルピナとナミアは嬉しそうに笑顔を作る。
両親同士が戦いをする、それに自分自身は父親と戦わなくてはいけない。
辛いのはリシェル自身だけではなくて、二人も同じ筈なのにその様子を見せようとしない。

「まったく、誰に似たのかしら・・・」
「ん?」
「何か言った、お母さん?」
「何も言ってないわよ」

こんな時でしか、家族としての時間も持つことができない。
それにリシェルは少し後悔していた、娘達の意識を機兵に移したことを。

「あの時の選択は合っていたと信じてるけど・・・」

リシェルは昔の事を思い出していた。



170年前、人々が宇宙に住み始めてから数年の月日が流れていた。
その中でもとりわけ、研究熱心だったのがリシェルを含む研究団だった。

「リシェル、検査結果出てるわよ」
「ありがとう、そこに置いといて、後で見る」

この頃のリシェルはまだ戦いなどという言葉も知らなかった。

「レフィン、そっちはどう?」
「こっちは順調だ、後半月もあれば完成するだろう」

当時、彼女達は宇宙で生活するだけでなく、それぞれの星を移動し中継地点をも担う宇宙船を作っていた。
それが後のウロボロスである。

「しかし、後はAIが問題なんだよな」
「そうね、いくら自動解析とは言っても、人間の感情にはほど遠いし・・・」

この頃の技術はかなり精巧で、見た目は人間と変わらない。
しかし、所詮は作り物。
与えられた任務しかこなすことしかできなかった。

「まあ、制御するには人間の感情は必要ないけどな」
「そんな夢の無いこと言わないでよ」

リシェル達が着手していたものは主に二つ。
超大型の宇宙船と人間にそっくりな思考回路を持つAIを作ることだった。

「そういえば、アレナが面白いものを作ったから後で遊びに来ないかと言っていたな」
「また、アレナが何か作ったの?」
「えらい大掛かりなものみたいだったが・・・」
「それじゃあ、さっさと片付けて見に行ってみましょうか」

そんな事が日常だった。
幸せな生活が続くとリシェルは信じて疑わなかった。
それからしばらくの時間が過ぎていくと、リシェル達の研究の方針は少しずつ変わっていった。

「まさか、このままだと後50年持たないなんて・・・」
「人間はやりすぎたってことか・・・」

人間達の環境汚染が更に進んでおり、リシェル達はこの地球が全滅するのに後50年という結果を出してしまった。

「どんなに計算しても、これを変えることはできないのかな・・・」
「まだ、時間はあるんだ。何とか考えよう」

しかし、リシェル達科学者がいくら集まってもいい解決策を見つけられなかった。
人間がもっと宇宙に出れば少しは変わるかもしれないが、それは非現実的なことだった。

「ウロボロスに人を詰めたとしても、到底足りないな・・・」
「そうだね・・・」

この頃には既にノルンの前身となるスーパーコンピュータが存在していた。
本当にただ計算するだけのコンピューターではあったため、感情的な理論は一切出さなかった。

「やっぱりこれしかないのか」

地球を救う方法はたった一つ。
人間達が少なくなること、だった。
リシェル達はうすうすそのことには感づいていた。
人間達が環境を破壊するのならば、いなくなるしかないということ。

「でも、そんなの非情すぎる」
「問題はないさ、機械が全てをやってくれる」

そして作り出されたのはプロトタイプのハイシェントだった。
機械が人を裁く、その目的に作られたがある欠陥が生じていた。
制御ができないほどの暴走頻度が高かったのだ。

「制御する方法はないのか・・・」
「やっぱり、やめた方がいいのよ」

レフィンはプロトタイプハイシェントの使用方法を日夜研究していた。
リシェルはそれ以外の方法を模索していた。

「これだ・・・これしかない!!」

とある日、レフィンは何かを閃いたようであった。

「人の意識をデータに変換すれば・・・」

理論的には今の技術ではそう難しくなかった。
完全なAIを作るのは無理でも、人の意識をデータに変換するのは簡単だった。
人の意識を全て収める器さえあれば良かったのだから。

「レフィン、もうやめましょう」
「どうしてだ、このままだと地球は滅びるんだぞ?」

余りにも危険なモノ、それを制御する術を手に入れたらどうなるか。
リシェルは徐々に変わってきているレフィンに気がついていた。

「ハイシェントは破壊しましょう」
「確かに、あれは危険すぎる」

レフィンを除いた人達の総意だった。
だが、その決断は遅かった。

「ハイシェント動きます!!」
「なんですって!?」

破壊する前にレフィンがハイシェントを起動してしまったのだ。
AIが不完全なまま動かせば、自分達の身も危ない。

「く・・・くくく・・・」

ハイシェントからレフィンの声が聞こえる。

「素晴らしい、肉体という呪縛から解き放たれるというのは!!」
「レフィン・・・貴方・・・!!」

リシェルはその言葉で全てを理解してしまった。
レフィンは自分自身の意識をプロトタイプのハイシェントに移植したのだ。

「私がこの地球を守ってやる、全ての人間に粛清を与えるのだ」
「レフィン、やめて!!」

既にリシェルの言葉はレフィンには届いていなかった。
ハイシェントは研究所の天井を力任せに突き破ると、上空から砲台を構えた。

「最初の粛清はお前達だ!!」
「皆、逃げて!!」

散り散りに逃げるのもつかの間、ハイシェントから一筋の光が放たれた。

「きゃあああああああ!!」

辺りのモノは薙ぎ払われ、研究所は倒壊する。
研究所だったものは瓦礫に変わり、ハイシェントはその場を去っていった。

「う・・・」

ゆっくりと目を開けるリシェル、それと同時に右足に激痛が走る。
おそらく、骨まで折れているが今はそんなことに構っている暇はなかった。

「皆!!ルピナ!!ナミア!!」

歩く度に激痛が走る痛みを堪え、皆を探す。

「リシェル・・・」
「アレナ!!」

リシェルはアレナに近づく、だがアレナは瓦礫の下敷きに上半身だけが出ている状態だった。
何とか助けようとするが余りにも乗っている瓦礫は重く、どかすことができない。

「リシェル、スパコンはまだ無事・・・?」
「何を言っているの・・・?」
「お願い、確認して」

リシェルはスーパーコンピュータを確認する。
あれだけの衝撃を受けたにも関わらず、スーパーコンピューターはその姿を保っていた。
もちろん、活動も停止していない。

「大丈夫・・・みたいよ」
「そう・・・、なら、私の意識を吸い出して、もらえる?」
「!!」
「このままじゃ、レフィンをとめられる人はいなくなる。だったら、スーパーコンピューターに私の意識を移せば・・・」
「アレナ・・・」
「お願い、リシェル」

アレナの懇願に断ることができなかった、生きているうちならば意識を吸い出すのは簡単だ。
だが、それは肉体の死を意味することでもあった。
どうせ待つ死で後悔するくらいならば、意識を吸い出して機械として生きる方がマシだと考えたのだろう。

「リシェルはルピナちゃんとナミアちゃんを・・・、ダウンロードが終わったら私も探すから」
「ごめんね・・・」

リシェルは最後にダウンロードを始めると娘達を探しに行った。
足に激痛がはしり、歩く度に言葉にすらできないほどの痛みがリシェルを襲う。

「ルピナ!!ナミア!!」

必死に娘を探すリシェル、こんなことをしたのが夫であるレフィンだということを信じたくは無かった。
運命というものは残酷だった。
リシェルが二人を見つけたときには、彼女達の命のともし火は既に消えかけていた。

「ルピナ・・・、ナミア・・・」

この時、全てを失うのが急に怖くなっていた。
夫は消え、仲間たちも死に、愛する娘達もいなくなってしまう。
それだけがどうしても許せなかった。

「アレナ!!」
「リシェル・・・、二人は・・・」
「まだ、息がある今のうちなら・・・」
「本当にそれでいいの?」
「私は・・・、私は・・・」

自分よがりだということは分かっていた。
後悔する事も分かっていた。
けれど、自分の命よりも娘達が失う方がずっとずっと怖かった。

「お願い・・・」
「分かりました」

スーパーコンピュータにダウンロードされたアレナは自分の意思でスーパーコンピュータを動かしていた。
研究員の仲間達でまともに生き残ったのはリシェルだけだった。
かろうじて息が残っていた者たちは自ら、意識をデータへと変換した。
自分達の犯してしまった過ちを消すために、あえて人であることを捨てた。

あるものはコンピュータにあるものはウロボロスに、それぞれの意識をデータ化しAIとして生まれ変わっていった。

「レフィンは止めないといけない・・・」

リシェルは機械化した仲間達と共にハイシェントに対抗しうるモノを作り始めた。
しかし、実験の段階でプロトタイプのハイシェントと同じ結果になっていた。

「こんなことをしている間にも・・・レフィンは」

最近のニュースの見出しはいつも変わらない。
謎の巨大ロボットが街を破壊しつくというものだ。
電磁で身を守るハイシェントに攻撃は効かない、核を使えば倒せるだろうが、それでは地球が汚染されてしまう。
この時代にはハイシェントを破壊する手段が全くと言って良いほどなかった。

街の人々はこの竜のロボットに怯える日々が続いた。
それはまるで恐竜映画でも見ているかのようだった。

「制御できないなら・・・」

リシェルは開発段階で自分もデータ化することを考え始めていた。
以前、レフィンがやったことと同じように。
そうすれば、自分の思うように動かせる、レフィンを止めることができる。

「本気なのか?」
「ええ、本気よ」

かつての仲間達が私に言葉をかける。
レフィンを止めるには同じ事をするしかない。そう思っていた。

「けど、それは無理な相談よ、リシェル」
「どうして?」
「もう、新しいハイシェントには同じ事を考えた人間がはいっているもの」
「同じ事を・・・?」

誰のことなのか分からなかった、自分以外にもそんなことを考えている事を居るとは思いもしなかった。

「お母さん!!」
「ルピナ!!」

そう、ハイシェントには娘のルピナが既に入っていたのだ。

「お母さんは駄目だよ、折角無事だったんだもん」
「ルピナ・・・」

ハイシェントからの声、泣いているつもりはないが、リシェルは涙を流していた。
自分の娘に実の父親を手にかけさせないといけない。
それが、リシェルにとって一番辛い事であった。
本当はまだまだ遊びたい年頃だったはずなのに、運命の悪戯が全てを狂わした。

「でもね、ルピナだけにそんなことはさせられないのよ」
「お母さん・・・?」
「後二機残っているはずよね?」
「リシェル!!」
「アレナ、もう決めたことなのよ・・・」

こうして、リシェルは自らの意識を最初期の機兵に意識を移した。



「もう170年も昔なのか・・・」
「ん?」

リシェルが懐かしそうに言葉を発した。
170年の間、データのバックアップを取るにつれて変わってしまったものも居た。
モイライやノルンがそうだったように。

「でも、まだまだ貴方達の力が必要なのね」
「うん、任せてよ!!」
「また、同じことは繰り返さないよ」

しばらく、リシェルの家族の団欒は続いていた。
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by meruchan0214 | 2007-11-03 17:18 | 守護機兵 ハイシェント2


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