<   2006年 03月 ( 15 )   > この月の画像一覧

12,変化する日々

暗闇に覆いつくされた、山の奥…
目の前には、人間ではない怪物が立っている
今までに何度も相手にしてきた相手、妖である

「貴方には恨みはないけど、お互いの領域をこれ以上侵させる訳にはいかないのよ」

私は腕を振り上げると、辺りの木々から木の葉がまとわりつく

「いっけええぇ!」

木の葉は私の意志で自在に操れる、それを刃のように扱うのもお手のものだ

ヒュンヒュンヒュン!!

木の葉は妖の体を切り刻む、相手は避けようとするが、
私の意志で動く木の葉を避けれるはずがない

「ぐおぉぉぉおおおお!!」

避けることを諦めたのか、妖は私に向かって突進してくる

ドドドドドドドド!!

単調な攻撃である、その程度では私に傷を負わせることなどできはしない

「これで、終わりよ」

私は腕を一本の茨の刃に変化させた

シュバ!!

グサッ!!

鈍い音と共に私の腕は妖の心臓を貫いた

「ごぉあおぉおおぁああ」

苦しそうな呻き声をあげ、その場に倒れる妖

「ごめんね、あるべき所へとお戻り」

妖の体が塵になって消えていく
いつか、私も塵となって消え行く運命なのだろうか
この仕事をしていると、いつもそう思う

狩る者と狩られる者、今回は私が狩る者だが、
明日にでも私が狩られる者になってもおかしくはない
妖というものはそういうものだ
お互いがお互い生きるのに必死なのだから

「っと、林さんはもう終わってたか」

隆康君が姿を見せる
どうやら、隆康君も無事に終わったらしい

「難しい顔してましたけど、どうしたんですか?」
「いえ、ちょっとね、種族は違うとはいえ、同じ妖ですもの…」
「そうですね・・・、俺は人間だから、人を襲う妖と戦うのは当たり前かもしれませんが、林さんは妖ですからね…」
「別に隆泰君が気にすることじゃないよ、私は人間が好き、だから守るそれだけのことだし」

私は無理と笑顔を作る
確かに理由は隆康君に言ったことそのままである、
しかし、それでもやはり同族殺しという、背徳感は消えることはない

ピルルルル

携帯の呼び出す音が聞こえる、
私は複雑な機構を持つ機械に触れるとダメージを受けるために持つことはない

「あっと、すいません、んっと、メグからか・・・」

隆康君は少し離れて電話で話し始める
本当は私もああいった物を持てればどんなに楽かは分かっているつもりだが、
肉体的に受け付けないのだからしょうがない

「すいません、メグも終わったっていう電話でした」
「そう、じゃあ私達もそろそろ解散しましょうか」
「そうですね、それじゃあ、支払いはいつもどおりなんで、よろしくお願いします」

隆泰君は闇に紛れて姿を消す
そして、私も家に帰ることにする

「陽子ちゃんは寝てるから大丈夫だと思うけど、起こさないようにしなくちゃ」

家に着くと、私は明かりがついているのに気付いた

「もしかして、陽子ちゃん・・・」

とにかく私は家の中に入ることにした
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by meruchan0214 | 2006-03-31 22:43 | 妖の調べ

11、不安の影

「ん…、ん~…」

ガバッ!!

私はベッドから跳ね上がるように起きる

「まだ、夜か…」

嫌な夢を見た、自分がまた独りに戻る夢
すでに汗をかくことはないが、気持ちが高ぶっているのが分かる

「林さん、まだ起きてるかな?」

私は林さんの寝室へと向かう

「林さん、起きてますか?」

小さい声で問いかける

シーン

返事がない、もう寝ているのだろうか
私はもう一度林さんに呼びかけた

「起きてますか?」

やはり返事がない

寝ているのかと思ったが、あんな夢を見た後、独りになるのが怖かった
意を決した私はそうっと扉を開けてみる

「失礼します」

しかし、扉を開けてみるとそこに居るはずの林さんの姿はなかった

「林さん??」

再び呼んでみるがやはり居ない
林さんが居ないと分かると、急に怖くなった
とにかく、独りという空気に耐えられそうになかった
怖い…早く帰ってきてほしい、そんな気持ちで一杯になる

「お願いだから、早く帰ってきて…」

私の体は寒さも感じないはずなのに、震えだしているのが分かる
死んだ体でもなお恐怖というものは感じるらしい

カタン

玄関で物音がする、もしかしたら林さんが帰ってきたのかもしれない
そう思った私は駆け足で玄関へと向かった

「林…さん?」

写る人影はそんなに大きくない私と同じくらいの身長だろうか
私は恐る恐る扉を開けて見る

ガチャ、キイィィィィ

扉を開けると私は驚愕しその場に立ち竦んだ
私と同じ顔の人間が私の目の前にいるのだ

「え、わ、わたし?」

目の前にいる私はニヤリと笑うと、私に掴みかかってきた

「キャッ!!な、なんなの…」

訳の分からない私は必死に腕を振り解こうとするが、
掴みかかってきた腕はどんなに力を入れても取れる気配がない

グググググ

私は締め上げられる、もう息もしていないので苦しくはないがこのままでは身動きがとれない
必死にもがく私だが、目の前の私の腕を放すことは出来なかった

「く、うぅううう」

私は一生懸命に力を込める

シャキィイイイン

一瞬だった、銀色の閃光が目の前の私を背中から切り裂く
目の前の私は苦悶の表情を浮かべながら私を掴んでいた腕を放す
すると、目の前の私はみるみるうちにバケモノの姿と変わっていく

「ちょこまかとちょこまかと逃げて…、もう逃がさないよ!!」

声が聞こえると、閃光が再びバケモノを横に一閃する

「ゴァアアアアアア」

バケモノが消滅していく
その後ろには、かなり大きな西洋の剣を持った女の人が立っていた

「大丈夫だった?間に合ってよかった~」

彼女はほっと胸をなでおろす

「あ、はい、大丈夫でしたけど…」
「いい?今、貴方が見たモノは何も見てないし、聞こえたことは聞こえなかった、分かった?」
「え?」

私には一瞬、彼女が何を言っているのかが分からなかったが
どうも私が一般人だと思われているようだった

「ちょっと、これを見てくれる?」

彼女は何かハンカチのようなものを取り出す

「なんですか?」

私はそれを覗き込む

パン

変な音がして、目がチカチカする
そのチカチカが収まった時には、既に女の人は居なくなっていた

「何者だったんだろう、林さんが言ってた妖みたいな人だったけど…」

しかし、それに答える人は誰もいなかった
まだ、夜と言う時間は続くのである
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by meruchan0214 | 2006-03-31 02:28 | 妖の調べ

10、気付かせぬ気持ち

陽子ちゃんが家に帰ってくるとずっとご機嫌だった
やっぱり、まだ若いから遊び足りないというのもあったのだろう
人間、笑っていた方が周りも明るくなる、私も行かせてよかったなと思った

「さてと、また仕事か…」

私の元に再び依頼がきていた、今回は少しやばめの仕事らしい

「陽子ちゃんには黙っていた方がいいよね」

陽子ちゃんを起こさぬよう、静かに家を出る
そして、待ち合わせの場所へと足早に向かった
私が着くとすでに隆泰君が現場で待っていた

「ごめん、お待たせ」
「林さんにしては珍しく遅刻だね、どうしたんです?」
「陽子ちゃんには気付かれたくなかったからね…」
「なるほど、その気持ち分かりますよ」

隆泰君はうんうんと頷く

「ま、それはそうと、今回の仕事はきついですよ」
「問題ないわよ、それに隆泰君も一緒に行くんでしょ?」
「そうですね、本当はメグにも一緒に来てもらいたかったけど、他にも依頼が来ちゃって」

メグというのは、彼の喫茶店で働く女の人である
隆泰君がもっとも信頼して、もっとも付き合いの長い女性らしい
時々、顔を合わすが、人当たりのいい子だというのは覚えている

「さて、さっさと終わらせて、帰ろうか」
「ん、分かったわ、行きましょうか」

私と隆泰君は闇夜の中へと溶け込んでいった
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by meruchan0214 | 2006-03-31 01:55 | 妖の調べ

9,新しい生活

「ここが春浦沢高校か…」

結局、林さんと話し合って高校を決めた
正直言ってしまうとどの高校でもよかったのだけど、
林さんがしっかりしておいた方がいいと言うので落ち着いたのは

校風が割りと自由で制服があるところ

となった

戸籍とかは、隆泰さんが用意してくれたらしい
実際にそれを見た時は、あまり実感はなかったが、
いざここまできてみると、少し心が躍る

「今日から、この高校に編入してきた、節田 陽子君だ、みんな仲良くするようにな」

担任の先生が私を紹介する、その後は例外なく、質問攻め
この辺りは小学校や中学とはまったく変わりがない
でも、高校という空気に今自分がいるというだけで嬉しかった

「陽子さんって、編入試験全教科満点だったって本当!?」
「N県から来たんだって?こっちは慣れた?」

こういう空気がなんとも言えず、いい気分だった
気にしすぎていたのが、まるで嘘のようだった

「よかったら、今日の放課後一緒に遊びに行こうよ」

私が人間でなくなってから、まだ2週間足らず
何故だかもう何年も経っているような感覚であった

「うん、いいよ」

誘われるがままに私は答える

お小遣いは林さんから少しもらってある
というか、少し所じゃなかったけど

私は放課後が待ち遠しかった
それ以上にこの時間がずっと続けばいいなと思った

そして、待ちに待った放課後

結局、みんなでゲームセンターに行くことになった

「陽子ちゃんって、ゲームするの?」
「うん、結構好きだよ」

実のところ、私は結構ゲーマーだったりする
生きていた頃は良く覚えてないが、結構頻繁にゲーセンにはいっていたきがする
林さんの家でも暇な時は大体ゲームをやっていた

30分後・・・

「陽子さんすごーい!!」
「そうかな?」
「凄いよ、これめっちゃ難しいって有名だよ!!」

確かに難しかったけど、クリアできないほどじゃあなかった
でもそこまで驚かれるとは正直思ってもみなかった

「あ~楽しかった」
「陽子さんって凄いんだね~、勉強もできるし~」
「そ、そうでもないよ」

言われて悪い気はしなかった、むしろ嬉しかった
諦めていたことだっただけに、余計に心に染みていく感じだった

「あ、陽子さん、携帯持ってる?良かったら番号教えて~」
「いいよ、はいこれ」

私はクラスの子と番号の交換をする

「それじゃあ、また明日~」
「ん、バイバイ~」

明日が早く来ないかな
そう待ち遠しく林さんの家へと戻っていった
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by meruchan0214 | 2006-03-29 21:17 | 妖の調べ

8、隠せない気持ち

その日の仕事を終えて私は家へと帰ってきた
陽子ちゃんが家に着てから1週間、早いものである

「ただいま~」

・・・・・・・

返事がない、ここ一週間はずっと玄関に迎えに来てくれていたのに

「もう寝ちゃったのかな?」

私は靴を脱ぎ、リビングルームへと足を運ぶ
リビングルームには陽子ちゃんがなにやらボーっとして何かを眺めている

「どうしたの、陽子ちゃん?」
「!!あ、林さん、もう帰ってくる時間でした!?」

私が声をかけると、抜けてた魂が戻ってきた、それくらい驚いていた
陽子ちゃんの手元には高校のパンフレットが見える
私が隆泰君に頼んでおいたものだ

「ああ、高校のパンフレット見てたのね、邪魔しちゃったかな?」
「い、いえ、ただ見てただけですから・・・」

あわててパンフを隠すように片付け始める

「高校、行きたいんでしょ?」

私が聞くと赤くはなっていないが、恥ずかしがっているのが分かる

「別に、行きたいとは…」
「自分が人と違うから行けない、そう思ってるんでしょ?」

どうやら図星だったらしい、というか丸分かりだったけど…

「はいはい、気にしちゃいけないって言ったでしょ?」

このこの悪い癖とでも言うべきだろうか
確かに元々が人間じゃない私からしてみれば、気にしないことは簡単かもしれない
けれども、彼女は元人間である
自分が他人と違うということは拭い去れない不安なんだろう

「大丈夫、そんな簡単になんかばれないって」

私は陽子ちゃんをひたすらなだめる
まだ、妖になりたてで間もない彼女、元々人間だった彼女
彼女にはまだ人間の生活というものを捨ててほしくない

「学校に行きたいんでしょ?」

再三する私の質問に対して、陽子ちゃんも遂に諦めたのか首を縦に振る

「それでいいのよ、まだ若いんだから、自分のやりたいことやらなくちゃ」

私は陽子ちゃんの頭を撫でる
彼女は少し恥ずかしそうにするが、ただ黙って撫でられていた

「さて、じゃあどこの高校にしようか?」

暖かい日常はゆっくりと流れていく

まだ見ぬ明日の夢を見ながら…
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by meruchan0214 | 2006-03-29 03:15 | 妖の調べ

7、己を知る

私が林さんの所にお世話になり始めてから1週間が過ぎた
今は林さんの家でゴロゴロしている

『色々考えるのは少し休んでからね』

そう言われてから、既に一週間が経過している
ゴロゴロしているといっても、あまりにも暇なので家の掃除など家事もやっている

「う~ん…、自分がこういう体っていうのには慣れてきたけど…、ずっと家にいると流石に暇だなあ」

独り言をつぶやく、こんなこと一週間前までは信じられないことだった
あの時はそんな余裕が全くなかったけれど、今はゆったりとした時間
それを肌で感じることが出来る

ぴんぽ~ん

玄関のチャイムが鳴る

「は~い」

私はいそいそと玄関の扉を開けるとそこには見知らぬ男性が立っていた
身長は180くらいで私よりやや大きいかなという感じ
体格はがりがりでもぶよぶよでもなく、すらっとした体型
顔はまあ普通かな?と思う程度
私基準では70点 まあまあと言ったところかな

「林さんはいらっしゃいますか?」
「林さんですか?この時間ならお店だと思いますが」
「そっか、それなら好都合」

男性は少しにやりと笑うと明らかにこちらに視線を注いだ

「林も無用心だな、甘すぎるな」

一瞬にして、その視線が敵意に変わる

ゴン!!

しかし、それは後ろから男性を叩く音で途切れる

「いってえええええぇぇぇぇ!!」
「店長!!あんまりふざけないでください!!」
「ジョークだって、ジョーク」

状況を飲み込めない私だが、男の人以外に女の子が現れたのが分かる
私と同い年くらいだろうか

「そもそも、まだ慣れていない方に対してそんなこと可哀想じゃないですか」
「いや、本気でやるわけないしさ、そんなに怒ることないじゃないか」
「まったく、今度から気をつけてくださいね」

とりあえず、私を襲いに来たという訳ではなさそうだ
女の子が店長と言っているあたりから、どこかのお店の人だとは思うけど

「っと、悪かったね、さっきのは冗談だから、気にしないでくれ」
「あ、はぁ…」

男はハハハと乾いた笑いと一緒に謝ってくる、

「林さんに頼まれててね、君に渡すものがあってきたんだ」

彼は袋から封筒を取り出して私に渡す

「毒とか入ってないから安心してよ、中身は見てからのお楽しみ」
「初めから本題に入っていればよろしかったのに…」

男と女の人の会話を聞いているとまるで漫才のようだ
私はその光景が面白くついつい笑ってしまった

「ん、元気そうでなによりだ。っと、自己紹介がまだだったな、俺の名前は平林 隆泰。林さんの店の近くで喫茶店のマスターやってる」
「わたくしの名前は真宮 夕子と申します、店長のお店で働かせていただいてます」

二人が私にそれぞれ自己紹介をする

「あ、私は節田陽子です、今は訳あって林さんのお世話になってます」

私も自己紹介をする
すると、隆泰さんの方が私にそうっと耳打ちをしてきた

「事情は林さんから聞いて分かってるよ。俺も夕子も君達と同じ世界の者だからよろしくな」

それを聞いて私はやっと彼らの一連の行動が理解できた
流石に、最初のは本気でどうしようかと焦ったけれど…

「んじゃ、林さんによろしく~、俺らはまだ仕事が残ってるから」
「今回のこと、恵さんに報告しないといけませんね」
「え、ちょっと、それは待ってくれよ」
「い~え、報告します」
「マジで勘弁してくれよ、な、な。あ、じゃ、また来るよ」

隆泰さんは夕子さんを連れてそそくさと外に出て行く
恵さんという方がそんなに怖いのだろうか

「さて…、これなんだろう?」

とりあえず、私は隆泰さんから渡された封筒を開けてみることにした

ビリビリビリ

封筒の中から出てきたのは高校のパンフレットだった

「高校のパンフ…」

これはきっと私宛ということは、このどこかの高校に行けということなのだろう
でも、私は林さんみたいに完全に人間になることはできない
元が人間の体だから、冷たくなっている体や腐食している部分を元に戻すなんてことはできないのだ

それでも、私自身高校に行きたいという衝動がある
生きていれば、今も普通に高校に通っていたはずである
だけど、普通とはもう違う、その考えが私に高校へ行くという選択肢を無くそうとしていた

「高校か…」

私はただしばらくパンフレットを眺めていた
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by meruchan0214 | 2006-03-27 23:57 | 妖の調べ

6、感じれる暖かさ

廃工場にいた女の子を自宅へと連れてきた

「ささ、あがってあがって。一人暮らしだけど家だけは大きいから」

私は少女を家へとあがらせる
少女は家に着くまでの間ずっと私の手を離さなかった
よほど、寂しかったのだろう、彼女は私の傍を離れようとはしない

「何か食べる?お腹とか空いてない?」

少女は首を横に振る

「いえ、お腹空かないので…」
「あらそう…?でも、あんなところにいたんじゃ、ずっと何も食べてないでしょ」
「でも、先ほど話したとおり私の体は死んでいて…」

私は少し頭を悩ませた、確かに少女の体は死んでいる為、食料を必要としないかもしれない
でも、いくらいらないとはいっても自分だけ食べるのも気がひける
そう思うと、何が何でも食べさせよう、そう心に決めた

「まあまあ、少しでもいいから食べなよ、人間らしい生活をするのも私達の仕事の一つだよ」
「そうかもしれませんが、私は…」

なんて遠慮深い子なんだろうと思った
いや、きっと本当はこんな子じゃないはず、
ただあまりにも理解不可能な出来事が一気に自分を襲ったのだ
すぐに慣れるはずもない

「私もいつも一人だからさ、一緒に食べてくれたほうが嬉しいし楽しいよ」
「分かりました、少しだけ…」

少女を半ば強引に説き伏せ私はご飯の用意をする
本当はと言うと私も御飯を食べる必要はない

水さえあれば、栄養は自身で作ることができるし
太陽さえ浴びていれば、一日中でも働ける

それでも、人間という種族の暮らしをしていると
人間らしさというものが生まれてくるらしい
いつの頃からか、私は人間と同じ様に生きていた

「はい、あなたの分」

私は少女に御飯を盛り付けして渡す
少女は少し震えながら、食事に手を伸ばす

パク

モグモグモグ

ゴクン

「どう?」

「・・・・」

少女は無言のままだ
もしかして、口に合わなかったのかな…
そういった考えが頭をよぎる

「おいしい、こんなの食べたの久しぶりな気がする」
「良かった…、って、味覚は残ってるの?」
「そう…みたいです、どうも、触覚と味覚は残っているみたいですね」

彼女はおいしそうに御飯を食べていく
あっという間に私が用意した料理はなくなっていった

「ご馳走様でした」

彼女は手を合わせて喋る
どうやら、大分落ち着いてきたようだ
声も今までとは違い、元気があるのが分かる

「お腹空いていなくても、食べられるものなんですね」
「そうそう、おいしいものはいくらでも食べられるのよ」
「そうですね」

彼女から笑みがこぼれる、工場に居た時とは大分様子が違う
これが本来の彼女の姿なんだろう

「そういえば、あなたの名前どうしましょう…、いつまでも、あなたとか君とかじゃあ大変でしょ」
「そうですね…、何か適当につけてくださってかまいませんよ」

少女がそういうので私は考える

「う~ん・・・、何か自分の名前で思い当たるような事はない?」
「思い当たることですか?」
「そう、なんでもいいから、思い当たること」

少しでも彼女の元の名前に近づけようと彼女に自分の記憶を探ってもらう

「ようこ…、そうだ…下の名前は陽子でした…後は…」

彼女は必死に思い出そうとするが、結局それ以上でてくることはなかった

「陽子ちゃん…じゃあ、苗字は節田(ふしだ)にしましょうか」
「節田?構いませんが、『不死だ』にかけているわけじゃあありませんよね?」
「う…」

図星とはいえなかった

「まあ、決まりね。あなたの名前は節田 陽子」
「はい」
「これからは、私が一緒に居てあげるからね」
「こちらこそ、お願いします」

こうして、少女 節田 陽子は木陰 林と共に暮らしていくこととなる
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by meruchan0214 | 2006-03-26 23:50 | 妖の調べ

5.5、心配するモノ

廃工場からやや離れた場所にある一軒家
ここから、廃工場の様子を伺う者達が居た

「林さんなら上手くやってくれるとは思うが…」
「お優しい方ですからね、大丈夫ですよ」

部屋の中にいるのは2人の男女
男は林に依頼を頼んだ、平林 隆泰であった

「店長、何で御自身で行かれなかったのですか?そうしたら、わざわざここで様子を見ることもなかったと思いますが…」

女が尋ねると、隆泰は手厳しいなという表情を浮かべる

「それは、俺が説得するのがめんどくさいからだよ、夕子君」

夕子と呼ばれた女性は少し微笑む

「冗談がお上手ですね、でも、私も林さんに頼んだ事は良いことだと思いますよ」
「ははは、何でもお見通しってわけか」

二人の間に少し笑いが起こる

「ん?」

隆泰の表情が一瞬変わる

「決着がついたみたいだな」
「そうみたいですね」
「林さんの圧勝か…まあ、当然の結果だろうな」

こうなることは予測済みだったらしく、さも当然という表情を浮かべる

「林さんは妖の中でもトップクラスの実力の持ち主ですから、つい2,3日前まで人間だった彼女では、勝ち目がないのは当たり前だと思います」

夕子も淡々とした口調で話す

「ま、林さんが彼女を救ってくれるさ」
「そうですね、私もそう思います」

隆泰はその場から立ち上がり、大きく伸びをする

「さて、と俺は店に戻るよ。まだ仕事が残ってるしね」
「分かりました、後はお任せください」

隆泰はぶらついた歩き方で外にでる
一方、夕子は一人その場にたたずんでいた

「迷える子羊が今日、救われたことに…感謝します…」
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by meruchan0214 | 2006-03-26 00:26 | 妖の調べ

5、信じるモノ

私の前に現れた女の人、攻撃を簡単に避け、今私の動きを封じた
どんなに力を加えようが私に絡みついた蔦は取れない

私は私以外にこういった力を持つ存在が居たことに少し安堵を覚えていた

「殺すなら、殺しなさいよ…」

私は死ぬことで今の自分がどんなに楽になるか、それは私自身一番良く分かっている
だけど、自分自身ではどんなことをしても自分を殺すことはできなかった
無様に生きているしかなかった、でも、今目の前には私を倒す事ができる人が居る
早く死んで楽になりたかったのだ

「悲しい顔しているわね」

私の顔を見て、つぶやく

「あなた、本当は心の優しい人なのね」

私は女の人の言葉がすぐには理解できなかった
止めを刺してくれるのかと思っていたのだが、逆にこちらを哀れむような顔で見ているのだ

「別に私は…悲しくなんか…」

嘘だった、本当はとても悲しくて寂しくて今すぐにも泣き出しそうなくらいだった
でも、今日までこんなことを分かってくれる人なんかいなかったし
分かってくれる人が居るなんて思ってもみなかった

「あなたとは、いまここで少し触れ合っただけだけど、分かるの」

私の心を見透かされている、そんな感じだった
女の人は私に絡みついていた蔦を解き放つと、不用意に私に近づいてくる

「私と一緒に行こう?」
「!」

衝撃だった、到底信じられないことだ、
何でこの人は私に優しくしようとするのかが分からなかった
もしかしたら、私を騙そうとしているのかもしれない

「安心して、大丈夫だから。私を信じて」

彼女は私の手に触れてくる、暖かい手、人のぬくもりがある
でも私の手は既にぬくもりなんて存在しない
ただ、血液の通っていない冷たい手があるだけである

「ね、あなたも寂しかったのでしょ?生まれたばかりなんだからしょうがないよね」

私はこの時既に泣いていたのかもしれない、涙が枯れ果てているから分からなかったけれど
騙されても良い、信じてみよう、そう思い始めていた

「ありがとう、私を信じてくれて」

私はまだ返答をしていない、けれど私の気持ちは伝わったらしい
しかし、改めて自分の手を見てみると気づかぬうちに彼女の手を握り返していた

「私の名前は木陰 林、あなたの名前は?」
「私…何も覚えてないんです、記憶も全て…ないんです…」

彼女は少し驚いた表情をするが、すぐに真面目な表情に戻っていた

「そうか、元人間…か、だったらしょうがないよね、急にこんなことになったら誰だって訳が分からなくなるよね」

彼女の言っている意味が分からなかった、私と同じではないのか
一瞬、また孤独という言葉が脳裏に浮かぶ

「とりあえず、貴方には一から教える必要があるみたいね」
「あの…、どうするのですか?」
「まずは私の家に行きましょう、こんなところじゃあゆっくり休めないでしょ」

私は彼女の言うとおりにすることにした、騙されても後悔はしない
たとえ、また一人になっても同じような人間が分かった
孤独は寂しいけれど、自分だけじゃないと思えるだけでも大分気が楽になった

「じゃあ、行こうか?」

彼女は私の手を引いてくれた

私の心の中で少し何かが解け始めているのを感じる

夢なら覚めてほしくない

現実であってほしい

一人には戻りたくない

そう思えてきたのだった
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by meruchan0214 | 2006-03-25 23:55 | 妖の調べ

4、出会い

「ここが例の場所ね…」

今、私はとある廃工場にやってきていた
どうやらここに妖が出没するらしいからだ

「さて、さっさと終わらせてしまいましょうかね」

私は廃工場へと入っていった

数時間前…

「というわけで、林さんに頼みたいのですよ」
「廃工場の妖ねえ…」
「本当は、俺が行けたら良かったのですが、別口で依頼があるもので…」

月に4~5回、こういう依頼がやってくる
妖を倒す妖…
同族の殺し合いと言ってしまえばそれまでだが、
毒をもって毒を制す、それが私達の考え方である

「分かったわ、今日中に片をつけるから」

私は隆泰君の依頼を受けることにした
人間にも妖にも言えることであるけれども、誰もが良い人であるはずもないし
悪い人であるはずもない。
私はただ私にとって大事な人達を守りたい、それだけである

今回の件も事例を聞く限りでは
人間がちょっかいを出さなければ特に問題ないはずだったと思う
人間には人間の妖には妖の立場というものがある

それをお互いに侵したときにこういったイザコザが起きるのだ
無干渉が一番いいのだが、そうもいってはいられない

「それじゃあ、お願いします。報酬はいつものようにやっておくんで」
「分かったわ、連絡先はいつものところで?」
「はい、誰かしら待機しているので、大丈夫ですよ」

隆泰君は私に頭を下げると、音も無く立ち去る
人間の同業者は非常に珍しいがこういった関係も面白い

「さて、準備してさっさと終わらせようっと」

少し気分の高揚している私はワクワクしながら準備を始めた

そして、現在この廃工場にやってきている

「気配はする…隠れているのかしら…?」

私は周囲に警戒しながら奥へと進んでいく

「今のうちに撒いておいたほうがいいか…」

私は植物の種を辺りに撒き散らす
これが室内で戦う時の私の切り札になりうるからだ

「これで良し、と後は仕掛けてくるのを待つだけかな」

私は妖が現れるのを待つことにした、
自分から探してもいいのだが、ここは敵の領地内
下手に動いて罠にかかるよりも、自分の領域に誘い込んだほうが戦いやすいからだ

少しすると空気の流れが変わる

「きたかな」

殺気とは違うが明らかにこちらの様子を伺っている

「出てって…さもないと、ケガをすることになります」

少女の声が工場内に響く

憑依神…にしては若すぎる声
単純にここを根城にしている、妖なのか
だったら、今まで噂にならなかったのがおかしい
という事は結論は一つ、新しい妖…生まれたばかりの妖なのだ

「残念だけど、そういうわけにはいかないのよ」
「そんな事言う人は今まで何人もきたわ、けれど誰も私を止められないのよ」

彼女の言動はどことなく悲しみを含んでいる
こうすることが苦肉の策であるかのようである

「私をここから出したいのなら、力ずくでやってみたら?」
「…そうですか…、仕方ありません…」

一瞬、気配が消えたかと思うと、それが大きな私への敵意となった

ガッ!!

ズザザザザ!!

私は彼女の拳を防御する、人間とは思えぬその力は私の体を何メートルも引きずる

「!!」

彼女の動きが一瞬止まった、それは明らかに驚いているという表現であった

「なかなかやるわね、でも私はこの程度じゃ倒せないわよ」
「少し甘く見すぎていたようですね…、次は本気でいきます」

ヒュン!!

さっきよりも素早い動き
訓練のしていない者だったら、目で追うことすらできないだろう
だけど、私はこれくらいの速さだったら何度も体験している

ドガッ!!

「まだまだ、甘いわね」

私は植物の盾を作り彼女の拳を止める

「そして、これで終わりよ」

合図を送ると、さっき撒いた種が一瞬で成長し蔦を伸ばし、彼女を絡め取る

彼女は必死にもがいてはいるが、蔦を外すことはできない
少しすると諦めたように、力を抜く
しかし、少女は少し安心したそんな顔付きであった
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by meruchan0214 | 2006-03-25 11:08 | 妖の調べ