misson1 新たなる幕開け

ヴェルゼやアースライン、そしてコンピューターノルンの戦いから20年。
人々の記憶から戦争があったということが薄れ掛けている頃。

前戦争の英雄達は各々の役目につき、ここ20年間は平和な時が続いている。
大型生活艦ウロボロスもまた平和な時が続いていた。

「行ってきま~す」
「アリシア、気をつけていきなさいよ」
「分かってま~す」

彼女の名前はアリシア・ルウカ、前戦争のウロボロス軍、フリス・ルウカとアコナ・グルリアとの間に生まれた子供である。
フリスとアコナは戦争終結後、親善大使として、アースライン、ヴェルゼとの間に入り、平和に尽力を尽くしてきた。

「お母さんも心配性なんだから」

ウロボロスに住んでいる人は地球の小さな小国ほど居る。
アリシアもその中の一人だった。

アリシアはウロボロス内にある学校に通っている。
ウロボロス内には一校しか存在しないが、小中高、更には大学、大学院まで付属している。
その敷地は広大でウロボロスの1フロア全て使っている。

「おはよ、アリシア」
「おはよ~」

いつもと変わらない学校生活、平和な時が既に当たり前となっていた。

ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・

不意に激しい揺れを感じる。
小惑星にでも追突したのだろうか、ウロボロスは武装を持たない。
しかし、そういった衝突を回避するために、常に周囲にバリアを張っており、少数だが機兵と呼ばれるロボットが警備に当たっている。

「わっ!!」

激しい揺れはそれ一回だったが、辺りがとても騒がしい。
少しすると艦内放送が流れ始める。

「緊急事態です、居住区に居る方は至急各自の家に戻り、待機し直ぐにシェルターへと逃げる準備を始めてください」

緊急事態、訓練は何度かやらされていたが、訓練ではないみたいだった。
アリシアや他の人達は訳も分からず、家へと帰らされた。

「一体何があったんだろう・・・」

アリシアは家に戻るが、人の気配がない。
自宅待機でシェルターに避難ならば、両親も家に居るはずである。

「お父さん達、どうしたんだろう?」

アリシアは家の中を探し回る。
すると、いつもとは違う光景が目に飛び込んできた。

「何・・・これ?」

父親の部屋の一部がドアになっており、そこから先には別の通路がつながっていた。
今まで何度も父親の部屋に入ったことはあるが、これを見たのは初めてだった。

好奇心旺盛なアリシアは『いけないかな?』と思いつつも中に足を踏み入れた。

「ウロボロスのどの辺りなんだろう?」

アリシアは見知らぬ廊下を歩く、緑や一般の建物が並ぶ居住区に比べ、艦の中を実感させる造りになっている。

ダダダダダダ!!

数人の人が廊下を走っていく、凄く慌しいようだ。

「あれって、軍服だよね・・・、前にお父さんとお母さんに見せてもらったことあるや」

両親は元々はウロボロス軍でトップクラスの実力を持つ機兵乗りだ。
アリシアの物心ついたときにはほとんどそういった事には縁はなかったはずだった。

「誰だ!!ここは居住区の人間が入るところじゃないぞ!!」

見つかった、アリシアはビクビクしながら後ろを振り向く。
しかし、アリシアも声をかけた軍人もお互いの顔を見て驚いた。

「お父さん!!」
「アリシア!!」

ほぼ同時に声が出る、父親の部屋の扉は軍部に続いていたのだった。

「どうやってここまで来たんだ?」
「お父さんの部屋に扉が・・・」

アリシアが言うと父親はしまったと言うような顔をした。
自分のミスだと言うことが分かったのだろう。

「フリス!!早くしないと!!って・・・アリシア・・・」

直ぐ後ろから聞こえたのは母親の声、父親も母親も軍服に袖を通している。

「私の部屋の扉から来たらしい、ちゃんと閉まってなかったようだな」
「そうなの・・・、でも今は急がないと・・・」
「ねぇ、緊急事態って何があったの?こんなの初めてだし・・・」

アリシアが聞くと、母親は肩にそっと手を伸ばす。

「大丈夫、何でもないから。直ぐに戻るからね」
「でも・・・」

アリシアは不安で胸がいっぱいだった。
生まれてから初めての出来事、何よりも軍服に身を包んでいる、両親を見るのが怖かった。
優しい言葉をかける母親が直ぐにでもいなくなってしまいそうだった。

「アコナ、フリス!!早くしなよ!!」
「了解、直ぐ行きます」

60台くらいの目つきの鋭い女性、まだまだ元気そうに見える。
着ている服からしてかなりこの中で偉い人に思えた。

「その子は?ここは民間人立ち入り禁止だぞ」
「艦長代理・・・申し訳ないです、私達の娘で・・・」
「そうか・・・、とにかく二人とも急いでいくれ」

それ以上は何も言わず、急ぐフリスとアコナを見送った。
そしてアリシアへと向きを変える。

「あの・・・、何があったんですか?」

恐る恐るアリシアは聞いてみる、その姿は威厳に満ち溢れており、目で見られただけでも圧倒される。

「知りたいと思うなら止めはしないが・・・、今までの生活はできなくなるかもしれないよ?」
「それでも・・・知りたい・・・です」

半分本心で半分は知りたくはなかった。
けれど、両親が何をやっているのか知りたかった、自分だけ知らないというのが許せなかった。

「それじゃあ、ついてきな」

艦長代理の後をついていく、大きな扉を抜けた先は大きなブリッジになっていた。

「ジョニカ艦長代理!!機兵出撃準備整いました!!」
「ようし、迂闊にシールドの範囲外にでるんじゃないよ!!」
「了解!!」
「アコナ、フリス、頼んだよ!!」

艦長代理が声をかけると、画面にアコナとフリス、両親の顔が映し出された。

「了解」
「分かりました」

次々とウロボロスから出撃する機兵。
アリシアは教科書でしか機兵を見たことがない。
その上、この緊迫した状況、ただ事ではないというのは素人でも分かる。

「正体不明機、戦闘エリアに到達します!!」
「相手の正体が分かるまで、深追いはするな!!」

オペレータの声や艦長代理の声が騒々しくなるくらい交錯する。
アリシアの目の前で起きているのは戦争だった。
目の前で花火のように起こる爆発。
どちらかは分からない、だけど今その爆発で人が死んだかもしれないのだ。

「お父さんやお母さんがあの中に・・・」
「大丈夫だ、あの二人は前戦争の英雄だからな」
「英雄・・・?」

軍人だったという事は二人から聞いていたが、英雄とまでは聞いたことはない。
ましてや、教科書には一切その事についてはふれられていない。

「だが、現実に人の命が今散っているのは確かだけどな・・・」

ジョニカ艦長代理は少し悲しそうな顔をするが直ぐに厳しい表情に戻る。

「艦長代理!!今までの機兵のデータに一致するモノがありません!!」
「何だと!?」

オペレーターの声に全員が驚きを隠せなかった。

「ジョニカさん、こいつら機兵とは違うみたいだぞ」
「ええ、似て非なるモノっぽいわ」

ついで入ってくるフリスとアコナの通信、ブリッジには動揺のざわめきが起こる。

「慌てるな、正体不明だとしても倒せない相手ではない!!」

ジョニカ艦長代理の言葉通り倒せない相手ではない。
正体不明と言えども、全く武器が通じないというレベルではないのだ。

「お父さん・・・お母さん・・・」

今のアリシアには二人の無事を祈るしかなかった。
戦局はウロボロス側が優勢だ、少しずつですが押していく。

「戦力的には上か・・・」

ジョニカ艦長代理が呟いたその時だった。

「何かが物凄い速度でやってきます!!」
「直ぐに解析しろ!!」

アリシアは何故かそれが怖いと感じた。
ずっと遠くにいるはずなのに、実際に戦っているはずではないのに。
今やってくる何かが怖いと感じ取った。

「どうした?大丈夫か?」

ジョニカ艦長代理が心配して声をかけてくるが、アリシアの震えは止まらない。

「艦長代理!!ゲイドチームが壊滅状態です!!」
「何だと・・・」
「解析完了、分析結果は・・・ハイシェントです」

辺りが騒然となる、当然といえば当然だ。
ハイシェントと言えば、前戦争でウロボロス軍最強の機兵として活躍した。
それが今敵として前に立っているのだ。

「しかし、こちらに残っているハイシェントとはややデータが違うようですが・・・」
「だが、ハイシェントだということには間違いないんだろう?」
「はい・・・」

ジョニカ艦長代理は明らかに悔しそうな顔をした。
たった一機の機兵の出現によって、一気に劣勢に立たされたのだ。

「敵増援部隊確認!!」
「不味いな・・・、ヴェルゼとアースラインに救援信号を!!」
「了解!!」

20年以上前の機兵とは言え、その圧倒的な戦力は健在だった。
この20年で機兵自体の性能は飛躍的向上した上で尚こちらの機兵よりもスペックが高いのだ。

「艦長代理、私とアコナであれを止める」
「・・・、頼むぞ・・・」

ジョニカ艦長代理は二人に頼むしかなかった。
実際にハイシェントに乗ったことのある人間ならば、対処法も分かるはず。
更にフリスとアコナの操縦技術はウロボロス内でもトップクラスだ。

「お父さん、お母さんダメだよ!!」

アリシアは両親を止める、しかし二人は止まるわけにはいかない。
大きな不安がアリシアを更に震えさせた。

「勝てないよ、あんなのに・・・」
「アリシア・・・?」

ジョニカ艦長代理はアリシアの言葉に疑問を持った。
機兵の事は何も分かっているはずがないのに、出た言葉。
まるで相手がどんな奴なのか感じ取っているみたいであった。

「艦長代理、もう一機来ます!!」
「く、流石にこれ以上は持たせられんぞ・・・」

一機でも危険な機兵が二機になったら手をつけられなくなる。
ジョニカ艦長代理もあせりの表情が浮かぶ。

「!!、通信来ます」
「何?通信回線開け」

通信を開くと、女性の声がブリッジに響く。

「増援が来るから、後5分持ちこたえなさい。アイツは私が何とかする」
「その声は・・・」

戦場に乱入してきたもう一機のハイシェント、それは自分自身と対峙するかのようにハイシェントの前へと姿をあらわした。

「ハイシェントが・・・二機?」
「誰が操縦しているの?」

アコナとフリスは驚きを隠せない。
しかし、お互いが敵同士であるということは直感した。

「フリスさん、アコナ、ここは任せなさい」
「リシェルさん!!」

その言葉に二人は驚きと喜びが混じったような声をあげる。
アリシアももう一機のハイシェントが来たことにより、かなり不安は薄らいでいた。

ハイシェント同士の戦いはほぼ互角、パワーもスピードもどちらも決め手にかけている。
だが、味方にハイシェントが現れたお陰で味方の士気がぐっと上がった。
何よりも乗っている人物がジョニカ艦長代理やフリス、アコナにとって喜ばしい人だった。

「後方から援軍です、アースラインとヴェルゼです!!」
「よし、一気に蹴散らせ!!」

援軍が到着したことに形勢不利とみたのか、正体不明機とハイシェントは戦線を離脱する。

「何とかなったな・・・」

安堵の息をつくジョニカ艦長代理。
アリシアも敵が撤退したことにより、不安は完全に消えていた。

「ハイシェントから再び通信来ます」

先ほどは声だけだったが、今度は映像つきでウロボロスに通信が入った。

「無事だったようね、ジョニカ」
「リシェル様!!」

画面に映った女性は20代前半の女性、リシェルと呼ばれていた。
熟年者達は全員彼女の事を知っているみたいであった。

「ウロボロスに帰還しても大丈夫かしら?積もる話はそれからにしましょう」
「はい!!」

ハイシェントはウロボロスに収納される。
そして、ブリッジにアリシアにフリスやアコナ、ジョニカなどクルー全員が集まっていた。
その前に立っているのはリシェルと呼ばれた女性。

「また、ここに立つ事になるなんてね」
「リシェル様・・・、お帰りをお待ちしてました」
「私はもうここの艦長じゃないよ」

艦長ではないという言葉に驚くアリシア。
どう見てもそんな年齢には見えない。

「ですが、ウロボロスの艦長は貴方しか居ません」
「ジョニカが今までやってきたのでしょう?」
「それは、リシェル様が帰ってくるまでの間で・・・」

あの威厳に満ちた艦長代理があれほどまでに下手に出ているのに驚く。
少しあっただけだが、それほどまでにリシェルという人を尊敬しているのだとアリシアは感じる。

「リシェルさん、受けてあげてください。皆、待ってたんですよ、絶対帰ってくるって」
「そうですよ、皆信じてたんですよ」
「フリスさん、アコナ・・・」

ジョニカ艦長代理以外にもフリスやアコナの言葉に戸惑うリシェル。
しかし、艦長代理やフリス、アコナ以外にもリシェルに戻ってきてほしい人はたくさん居た。

「分かりました。ですが、指揮は今まで通りジョニカが行ってください」
「はい」
「以上です。後でジョニカ、フリスさん、アコナには個人的に話があります。いいですか?」
「分かりました」

リシェルの話が終わると皆は各々に解散する。

「リシェル様の部屋はそのままにしてあります」
「ありがと、じゃあ私の部屋でね」

リシェルはその自分の部屋へと歩いていった。

「ねえ、お父さんあの人どういう人なの・・・?」
「このウロボロスを作った人の一人で艦長だった人、20年前から行方不明だったんだ」
「え、でもどう考えても20年前っていったら子供じゃん」

フリスはその言葉を聞くと顔から笑みがこぼれる。
アコナやジョニカもそれを聞いて少し笑っている。

「あの人は特別だからな」
「特別って・・・?」
「一緒に行けば分かるよ、来るか?」
「うん」

アリシアはアコナ達と一緒にリシェルの部屋へと向かった。

「失礼します」
「どうぞ」

アリシア達が中に入ると、懐かしそうにリシェルが部屋を見ていた。

「本当にあのときのままなのね」
「ええ、そうですよ」
「立ち話じゃなくて、座って話しましょうか」

リシェルはアリシア達を座らせる。

「その子はフリスさんとアコナの?」
「ええ、そうです。アリシア」
「あ、私、アリシア・ルウカって言います」

アリシアが少し硬くなりながら挨拶をすると、リシェルはそれをただにこやかに見ていた。

「よろしくね、アリシアちゃん」
「こちらこそ、よろしくお願いします」

不思議な雰囲気を纏った女性だと感じた、見た目こそ若いが見た目とは不相応な落ち着き方。
それに自分たちとはどこか違うとアリシアは思った。

「さて、まずは私がここに来た理由から話しましょうか」
「ええ」

リシェルはゆっくりと語りだした。

「私の体は確かに爆発に巻き込まれて失ったわ、それと同時に全て消えるはずだった。でもね、お節介が一人居てね」
「お節介?」
「モイライが私とノルンのバックアップを取っていたのよ、最後の時までのね」

アリシアには何の話をしているか分からないが、モイライは聞いたことがある。
今、アースラインで活躍しているスーパーコンピューター。
これからの人類がどうあるべきかを常に計算し続けていると言う。

「でも、バックアップしてあったなら何故20年も?」
「私はもうここに戻ってくるつもりはなかった、私の役目は終わったはずだった」
「はずだった?」

リシェルの言い方はまだやるべきことが残っていたみたいだった。
しかもそれは想定外であったみたいだ。

「まさか・・・」
「ええ、あなた達も見たでしょ。もう一機のハイシェント」
「あれって一体?」
「順を追って話すわね、まずもう一機のハイシェントの事」

リシェルはフゥと溜息をつき、再び口を開いた。

「私たちがウロボロスを作って、すぐの初めての機兵。プロトタイプのハイシェントなの」
「プロトタイプ?」
「ええ、だけど理論的に余りにも危険だったから。私達は破壊することを決めた。けど、それを良しとしなかった人間が居たの」

今まで以上にはっきりと言う口調。
決意の強さが現れているみたいだ。

「その良しとしなかった人間は、プロトタイプのハイシェントを奪って宇宙に逃げた」
「でも、それって170年も前の話ですよね?」
「そう、私達はそれを追って破壊したはずだったんだけど」
「今になって再び現れたと言うことですね」
「その通り、そしてアレを動かしているのがあの人なら私はそれを止める責任がある」

少し悲しそうな表情をするがすぐに元に戻った。

「あの人がああなったのは私の責任、妻として止めなくてはいけないから」

その言葉にその場に居た全員は驚いた。
話にも驚いたが、結婚していたと言うことにもっと驚いたのだ。

「あら、言ってなかったっけ?」
「初耳ですよ!!」
「まあとにかくね、そういう意味で私は止めるために来たの」

アリシアには分けの分からない話だ。
ただ、リシェルが見た目とは裏腹に凄く年を取っているのが分かった。
聞いている話だとどうもロボットっぽい。

「とりあえず、アリシアちゃんの目が点になってるから。ちゃんと説明しましょうか」
「あ、お、お願いします」

リーシェは今までの経緯・・・、以前の戦争の事を要約して話してくれる。
自分自身が元々人間で記憶などを電気信号に変えて、ロボットの体に移植していること。
ノルンやモイライなどのスーパーコンピュータの事など話してくれた。

「というと、リシェルさんは、今200歳くらい?」
「そうなるかな」
「はぁ~・・・凄いですね」

ある程度説明が終わると、再びリシェルは会話を元に戻す。

「それと、今回現れた敵だけど」
「あれは一体?」
「太陽系ではない所から来ているわ」
「なるほど・・・」
「文明レベルはアッチの方が上、操縦技術は下の中って所らしいわ」
「らしいわって・・・、疑問系なんですね」
「ノルンもそこまでは分からないわよ、初めて見たから」

ノルン、先ほど説明してもらった全人類に対して宣戦布告を行ったコンピューター。
20年前の戦争でリシェルもろとも爆発したはず。

「ノルンも修復したんですね」
「ええ、今は人を裁くつもりはないらしいわよ」
「今は、ですか・・・」
「まあ、ね。でも、味方ならあれほど強力なサポーターはいないけどね」
「そうですね」

敵の敵は仲間といったところだろうか。
正体はこの星間ではなく、更にスケールの大きい話だ。

「もう、何がなんだか・・・、これから戦争がまた始まるって事ですか?」
「そう・・・なるかな、私一人で済む問題なら良かったんだけど・・・」

両親達の懐かしい仲間が戻ってきてくれたことは嬉しいことだと思う。
けど、戦争が始まると言うことにアリシアは大きな不安を抱え始めていた。
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# by meruchan0214 | 2007-10-04 21:01 | 守護機兵 ハイシェント2

騎士の影 4

「ねぇ~、ジュリ~遊ぼうよ~」

いつも通りエルミナ様が私に声をかけてくる
私はあくまでも護衛であり、遊び相手ではない
そう思っていた

「!!」

私は不意に近づいてくる気配を感じた
1・・・2・・・3・・・
全部で3つの気配が感じ取れた

「エルミナ様、私から離れないで下さい」
「ん?」

明らかにこちらに敵意を持って近づいてくる
そして、私達の前に現れたのは身なりは粗野な格好をしており、腰には剣が刺さっている
風貌から言ってマトモな職についているとは思えない

「どっちがお嬢様だ?」
「似顔絵通りだと、あっちだな」

男たちは何やら話し込んでいる、どうやらエルミナ様を誘拐するつもりらしい

「もう1人はどうする」
「抵抗するならやっちまっても構わねえさ」

男たちはこの時点で既に間違っていた
まだこの時の私は若いとはいえ、敵の力を分からないほど愚かではない
明らかにこの男達は私よりも格下の相手だった

「お前たち、このまま立ち去れば何もしない。だが、エルミナ様に近づくなら容赦はしないぞ」

私の言葉にキョトンとした男達、しかし、すぐに笑いはじめた

「はっはっは、面白い事言うな。下らん、やっちまえ!!」

男達は一斉に私達に向かってきた
私はエルミナ様を後ろに前へと歩き出す

フッと男たちとすれ違う、男達は何も気がついていない

ポタ、ポタ・・・

何かが垂れる音で男達はやっと気がついたみたいだった
自分達の体が傷ついている事、そして私との実力の差を

「ひ、ひぃぃぃぃ」

男達の顔色がみるみると青ざめていく
私の使う武器元々拷問器具であるため、殺傷能力は高くない
だが、相手を苦しめるという点においてはこれ以上ない武器である

「今、楽にしてあげます」

私は懐にしまっていた短剣を取り出し、恐怖ですくんで動けない男達に構える

「待って!!」

男達を殺そうとした私を止めたのはエルミナ様だった
普通の子供であれば、怖くて動けないはずだ
だけど、エルミナ様は力強く前を向いていた
体は小刻みに震えている、当然だろう、しかしそれ以上に強い意思がエルミナ様を動かしているように見えた

「それ以上する意味はないよ」
「何故です?エルミナ様を連れ去ろうとしたのですよ。悪人は裁かれて当然です」
「でも、それ以上やったらこの人たちは罪を償えなくなる、命は一つしかないんだよ」

私よりも年下のエルミナ様が凛とした表情で説教をする
しかも、今まさに自分自身が誘拐されようとしていたのにも関わらず、その相手を庇っている
私にはエルミナ様の行動が理解できなかったが、何故か彼女の言葉には心を惹かれてしまうものがあった

「・・・、分かりました、エルミナ様が言うのであれば」

私は短剣をしまうと男達を官憲に突き出した
それを見ていたエルミナ様は本当に嬉しそうな表情をしていた。

「ありがとう、ジュリ」
「お礼を言われるような事はしていません」
「でも、私を助けてくれたし、言うことも聞いてくれたよ」

今までと同じ事をしていて「ありがとう」なんて言葉をいわれたのは初めてだった
初めて言われたこの言葉は私にとって恥ずかしく、そしてとても嬉しかった

「こ、今回だけですからね」
「あはは、ジュリってば赤くなってる」

この時、初めてお父様が言っていた事を少し理解した気がする
そしてこれが私とエルミナ様の関係の始まりだった
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# by meruchan0214 | 2007-07-14 21:40 | 短編小説

騎士の影 3

私は次の日からエルミナ様のボディガードとして表舞台に立つことになった
自分はこういったことは似合わないと判っている
けれども、父親の命令には逆らえない

仕方がなく私はエルミナ様のボディーガードをしていた

「ねぇ、ジュリ、遊ぼうよ~」
「いけません、私は貴方のボディガードであって、遊び相手ではないです」
「だって、お父様はそうは言ってなかったよ~」

旦那様は何を考えていらっしゃるのか、お父様も含めて訳が分からない
エルミナ様はずっと私と遊ぼうとしている

私にはそれがかなりイライラすることであった

「ねえ、何でジュリっていつもそんな怖い顔してるの?」
「そうですか?」

私は言葉で否定はするものの、自分でもイライラしているのは分かる
それが気づかないうちに表に出てしまっていたのだろう

気づかれないように極力努力をしていたつもりだった
しかし、エルミナ様には分かってしまっていたのだ

「もっと一緒に楽しもうよ、ね?」

エルミナ様は屈託のない笑顔を私に向ける
私にはそれが眩しすぎてしっかりと受け止める事ができなかった
ついつい、顔を背けてしまう

「ジュリ~、遊ぼうよ~」
「いけません!!」

つい声を荒げてしまうがエルミナ様はお構いないといった感じだった。
この時、私はまだ気がついていなかった
イライラしていたのは、彼女ではなく、自分自身の心だと言うことに

それを心の底では求めていたと言うことさえも分かっていなかった
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# by meruchan0214 | 2007-07-05 22:16 | 短編小説

騎士の影 2

12年前、私はまだ12歳だった
しかし、実力に年齢は関係ない、幼いからの修行を積んできた私は12歳でも、家系の中でも秀逸な実力であった。

「お父様、私は納得できません」

私は同じ暗殺者である父親に申し出た。

「決まったことだ、明日からエルミナ様の正式な近衛兵として従うのだ」
「何故です!!」

私には意味が分からなかった。
私達は今までギルバート領で影として生きてきていた。
これからもずっとそうなっていくと思っていた。

「命令だ、分かったな」

私の父はそれだけ告げると、私の前から音もなく消えた。
私はその場に立ち尽くすしかなかった。

父親に言われた意味も分からずに・・・
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# by meruchan0214 | 2007-07-01 22:05 | 短編小説

騎士の影

私の名前はジュリ・レイシス。
ここ、ギルバート領に仕える騎士である。

私は元々騎士ではない、暗殺者として育てられてきた。
だが、今は騎士としてこの領地を守る義務がある。
エルミナ様と共に・・・

「ジュリ、ジュリってば~」

私がいつものように、精神統一をしているとエルミナ様の呼ぶ声がする。

「どうなさいましたか?お嬢様」
「お父様が呼んでるわよ」
「分かりました」

私がエルミナ様に使えてから既に12年の年月が過ぎていた。
本来はこの領地の影で生きるべき私が表立ってエルミナ様を護ってきた年月でもある。

最初は違和感を感じていたが、今ではこれを守る事が生きがいとなっていた。

「ジュリって、本当に丸くなったよね」
「そうですか?」
「うんうん、最初だって凄い無表情だったもん」

気持ちの変化があったことは確かである。
暗殺者として教わってきたことにはなかったことを、エルミナ様から教わった。
私の父上にエルミナ様を護るように言われたときの事を私は今でも覚えている。

あのときから私は変わっていったのだと・・・
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# by meruchan0214 | 2007-06-07 21:19 | 短編小説

騎士の影 登場人物

騎士の影 登場人物

ジュリ・レイシス 24歳 ♀
この話の主人公、性格は冷静沈着、頭も回り、実力も一級品。
元々は暗殺者の家系にだったが、親の言いつけで仕えている領主の騎士として活動している。
幼い頃は非常に感情の起伏がなかったが、今ではすっかり丸くなった。

エルミナ・ギルバート 18歳 ♀
ジュリが仕える主人、今のジュリを作った存在。
明るい性格で他人の事をちゃんと考えて上げられる女性で領民の人気も高い。
ジュリの事を信頼しているが、変な事をしてケガをしないか心配している。
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# by meruchan0214 | 2007-06-06 21:36 | 短編小説

一ヶ月開いている事についての独り言

一ヶ月とちょっとの更新期間が開きました・・・
もう少し早くやろうとは思っていたのですが・・・

小説の更新が止まった訳ではありませんのでよろしくお願いいたします。

しばらくはこのような調子が続くかと思いますが、出来る限り更新いたしますので、
生暖かい目で見守ってくださいませ。

次のお話はどうしようかなあ・・・
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# by meruchan0214 | 2007-06-06 21:23 | 独り言

Net8 知るも知らぬも

現実とネット、とても近いようでとても遠いものだ
俊二と啓子は優衣やキューブの店長の事を心配していた

「大分、大事にはなってるよね・・・」
「そうだね・・・」

迷惑がかかるといけないからと、知り合いであると言う事は伏せている
さらに、ここ数日は優衣とは会っていない

「大丈夫なのかな、優衣さん」
「店長さんがついてるから大丈夫だとは思うけど・・・」

俊二と啓子はそんな話ばっかりしている
連日、キューブに押し寄せる人は後を断たない何人も何人もやってくる
もちろん、目当ては優衣がほとんどであった

「でも、ラミュカを操ってるのは店長でレジルが優衣さんなんだよね」
「うん」

何度か大型の掲示板でラミュカは男だと言う事は言われてはいた
だが、優衣の姿が公の場に出た事でラミュカ=優衣と思う人が圧倒的に多かった

「店長さんも大変だな、いくら言っても聞いてくれないって言ってるし」
「そう考えると怖いよね」

不特定多数の力と言うのは恐ろしいもので嘘でも現実のように思い込ませてしまう
実際にラミュカはキューブの店長が扱うキャラクターであるが、
今ここに来ている人間たちは優衣が目当てで来ているのだ

「俊二君、啓子ちゃん」

小声で二人を呼ぶのは優衣だった、周りに見つからないようにそっと呼んでいる
二人も周りに気を使って、優衣の方へと向かった

優衣が居たのはキューブの事務所だった、店には来ては居たが
この状況で店には出さないほうが良いと店長が判断した結果だった

「優衣さん、今回の事は大変ですね・・・」
「まあねぇ、一応、警察にも言ってはあるけどさ・・・」
「表に出たものは無くせないってことですね」
「そういうこと」

今は出回っていないとはいえ、表に出た事は変わりは無い
更に言えばそれが今回の騒動に火をつけているのである

「心配かけてごめんね」
「いや、優衣さんこそ大変じゃないですか」

俊二は優衣に答える

「僕達に手伝える事があったら、何でも言ってくださいね」
「ありがと、でも、治まるまで耐えるしかないからさ」

優衣はあははと力無く笑う、相当に参っているみたいだ

ネットの力を恐ろしいと感じながらも何も手伝えない自分達が少し悲しかった
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# by meruchan0214 | 2007-05-02 22:07 | ウィザード&ブレイド

Net7 仮想と現実

シュンとテリアはいつものようにレベル上げをしていた
まだまだラミュカやレジルには追いつかないが大分強くなってきていた

「あ、ラミュカさん」

街の向こうからやってくるラミュカ、だがシュンとテリアに挨拶することも無く通り過ぎる
その姿は何かに追われているみたいだった

「どうしたんだろ」
「さぁ・・・」

その直ぐ後だった、何人もの人達がラミュカの後を追っていった
何故、追いかけているのかは分からなかったがほとんど男達が追いかけていたのは分かった

「何かあったのかな・・・」

気になったシュンとテリアは今度キューブに行ってみる事にした

現実の世界に戻って、俊二と啓子はキューブへと向かった
ラミュカやレジルの正体を知ってからというもの、割と頻繁に行くようにはなっていた

カランカラーン

二人が中に入って驚いた、いつもと客層が全く違う
ここの客はある人が目当てでやってきていた

「・・・」

何も言葉がでない俊二と啓子、ちらっとある男のPCを覗く

「優衣さんの写真だ・・・」
「え、うそ」

しかし、店の中には優衣の姿はどこにも見えない
居るのはラミュカをやっている人間、キューブの店長の他のアルバイトだけだ

「店長さん」
「お、どうしたんだ?」

いつもと変わらず接する店長、そこは慣れというものだろうか
店長は二人に目配せをする、俊二と啓子はそれをなんとなく理解はした

「また、後でね」

ボソボソと二人にだけ聞こえるように耳打ちをする
それに俊二と啓子は軽く頷いた

そして、他の人間たち恐らく優衣さん目当てで来た人達が帰ったあとやっと平和な時がキューブに訪れていた

「一体どうしたんですか?」
「誰かが優衣がウィザード&ブレイドの事話していたのを聞いてそれをアップしたらしい」
「でも、それっていけないことなんじゃ・・・」
「そう、だから今アップした人を探してもらってる」

店長はやれやれと言った顔つきで話している

「ラミュカを優衣が使ってるキャラクターだと思っているらしくてね」
「それで昨日はあんなに逃げていたんだ・・・」
「まあね、君達を巻き込む訳にはいかなかったからさ」

優衣は傍からみてもかなり綺麗な人だ
それがウィザード&ブレイドのトップランカーだと分かれば、黙っていても男達が寄ってくる
もっとも、本当はラミュカはこの店長であり、その相方が優衣であるわけだが

「いくら否定してもね・・・」
「ああ、分かります、それ」

過ぎてしまった事はしょうがないとは言え、これでは優衣が店に来れない

「優衣さんはどうしてるんですか?」
「居るにはいるけど、店には当分出せないな」
「ですね・・・」

俊二と啓子は出してもらったコーヒーを飲んで家へと帰った

「あの二人も大変だな・・・」
「でも、笑い事じゃないよね」
「そうだね・・・」

インターネットの怖さを知った二人、そうではなくても影響を与えるには大きすぎるものだということを認識させられた
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# by meruchan0214 | 2007-04-24 22:14 | ウィザード&ブレイド

16夜 人と妖

キルトの力を受け継いだ私は今は佳織さんや華ちゃんと同等の力を持っている
しかし、キルトの力を受け継いだことによって私の肉体に少なからず変化が起きていた

「体が妖と同じになってきているわね」
「ま、そうですよね」

半分は分かっていた事、妖の力を持っている今ではそれを隠すのはたやすい

「でもいいの?これ以上力を使い続けると本当に妖になっちゃうよ?」
「華ちゃん、大丈夫。私が選んだ道だからさ」

人間ではなくなってしまうというのには違和感はあった
けれども、素直に受け入れられるのはキルトと一緒になったからだろう
私は修子だけど、キルトと一緒になった
人の体に妖の力、使い続ければ妖に近づくのも当然だろう

「そういえば」

私はずっと気になっていることを佳織さんに聞いてみることにした

「佳織さんって、妖としては中途半端っぽく見えるんですけど・・・」
「半分人間だからね」
「半分・・・?」

佳織さんは自分が生まれたときの事を話してくれた
人狼と人間の子供、それが佳織さんなのだ

「だからほとんど人間と変わらない姿だし、狼になる部分も一部分」
「確かに、妖の姿になってもほとんど変化ないですもんね」
「まあ、純粋な人狼の業が使えないものもあるけれどね」

やはり、生粋の人狼と同等と言う訳にもいかないが、それは修行次第で何とかなるものなのだ

「修子ちゃん、これからも力を使い続けるなら自分がどうして力を使うのか忘れないようにね」
「はい」

私は佳織さんの言葉を心に止め一緒に仕事に出る
勉強する事はまだまだたくさんある、それをもっともっと学びたいと思った
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# by meruchan0214 | 2007-04-23 22:42 | 知らぬが幸せ