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最終話 カナシミノウタ

血に染まった夕焼けだがそれは心に焼きつくほど綺麗だった

「明日には目的地に着きそうだな」
「ああ、何とかここまでやってこれたな」

我々は遂に目的地のすぐ傍までやってきていた
死者が出なかったわけではないが、それでもかなり被害は抑えれたほうだ

普通だったらとっくに全員死んでいるか、生き残っても数人だっただろう

「小岩、ここを生き残ったらどうする?」
「俺か?俺は・・・そうだな・・・、実家に帰ってのんびりやるのもいいかな」
「そうか、お前らしい考えだな」

先の話をするなんて何日・・・いや何ヶ月振りのことだろう
今までなら、いつ死ぬべきかしか考えなかったが、今は先を考えている
全てはあの事があってからの事だ

「大石はどうするんだ?って、お前には妻も子供もいたっけ」
「ああ、元気で居てくれればいいが」
「大丈夫さ、お前が無事なら奥さんも子供も無事さ」

夢や希望を語り合う、そんな機会があることは思っても見なかった
今、我々と行動を共に居ている民間人もそうだ
最初は戦争に怯えるしかなかったが、今では生きる事を考え行動している

自分が何をするべきか、死んでいった人のためにも生きる為に
みんなが考えている、大人も子供もみんな考えている

「お姉ちゃん、やっとここまできたよ。無事にやり遂げられるんだよ・・・」

ティリカは少し悲しい目をしていたが、それもすぐに元に戻る

「さ、後もう少しだよ!!頑張ろうね!!」

ティリカの笑顔に何回助けられたか分からない
その能力は元より明るさに皆が元気つけられてきた

「ああ、そうだな」

我々は足を進める、もう少しで未来が開けるのだ

そして・・・

我々は島の最南端の埠頭にたどり着いた

「ついにここまできたんだな!!」
「ああ、俺達は生き残れたんだ」

皆で歓喜の声が上がる
今まで皆で頑張ってきた、それだけに喜びもひとしおだ

「後はお姉ちゃんの部隊が来るのを待つだけ・・・」

ターン

その時、一発の銃声が辺りに鳴り響いた

「あ・・・」

腹から血を流しその場に足をつくティリカ
銃声のした先にはいつもとは見慣れない服装のイディア国の軍人がいた

「あなた達は・・・」
「束の間の喜びはどうだったかな?裏切り者と倭国諸君」

イディア語で喋っているのは分かるが、私は片言しか知らない
だが、相手は我々がここに来ることを知っていたようであった

「イディアの特務部隊・・・、じゃあ、シェリルさん達は・・・」
「ルティの戯言に惑わされた者達は既に処刑しましたよ」
「なんですって・・・!!」

イディア語で喋るティリカ、聞き取れる範囲では既にルティの仲間は処刑されたということらしい

「あなたの能力は非常に厄介だ、だから油断する今まで待っていたのですよ」

ティリカは悔しそうな顔を浮かべる、
イディア軍の撃った弾はティリカに確実にダメージを与えている

「その傷ではまともに力も使えまい、今ここで処刑してやる!!」

イディア軍はティリカに向かって銃を向けた

「ティリカ逃げろ!!」

私は隠し持っていた拳銃をとっさに抜きイディア軍に撃ちこむ

ダンダンダンダンダン!!

「ぐあ!!」
「ぎゃあ!!」

何人かの急所には命中した、しかし、やはり全員を殺しきるまでにはいたらなかった

「この!!」

イディア軍は自分に銃を向ける

『だめだ!!』

ダダダダダダダダダダ!!

自分はやられたと思い、目をつぶる
だが、何も感じないし痛くもない、まるで何も当たっていないようであった

『まだ、動く・・・?』

自分は恐る恐る目を開けると、目の前にはティリカが立っていた

「手は出させない、これ以上誰も殺させない・・・!!」

弾丸はティリカの直前で止まっており、少しするとパラパラと地面に零れ落ちる

「まだ、これだけの力が残っているとは・・・、撃て、撃ち殺せ!!」

ダダダダダダダダダ!!

再び、銃から弾が打ち出される、だがそれがティリカに届くことはなかった

「殺させない・・・、だから、あなた達を倒す!!」

いつものティリカとは全く違う雰囲気となる
邪悪とでも呼ぶべきだろうか、そんなオーラを纏っているようだった

「死を司る者よ、我の仇なす敵に裁きの鉄槌を与えん」

ティリカが詠唱を終える、すると辺りは急に闇にと包まれる

「うわ、うわああああああ!!」

イディア軍の叫び声が聞こえる

ズバア!!

肉を切る音

グチャ

何かを潰したような音

とにかく色々な音がした、それは今まで聞いたどんな音よりも生生しく、残酷だった

だんだん視界が晴れてくる
そこには、イディア軍の死体が転がっていた

一人は首を掻き切られたように、首と胴が離れている
またある一人は人間であったか分からないように肉片となっている

「うぐ・・・」

流石の残酷さに自分も気分が悪くなった
恐ろしい能力、人を一瞬で殺してしまう、初めて彼女達の能力が怖いと感じた

「・・・、大地の精霊よ、彼らを元在るべき場所へ・・・」

ティリカが再び詠唱を終える
すると、死体は一瞬で風化し土へと帰っていく

何もなかったかのようになっていくその様は少し異様であった

「ティリカ・・・」

私はティリカに近づく

「ゴホッ!!」

ティリカは口から大量の血を吐き出した

「ティリカ!!」

ティリカに慌てて近づく、彼女はその場に倒れこんでしまう

「ごめん・・・なさい・・・」

ティリカが力なく口を動かし話し始めた
見ると、最初に受けた弾丸の傷意外に無数の銃痕ができていた
そう、私を助けた時に全部の弾を受けきったわけではなかったのだ

「私、お姉ちゃんに禁止されていたことしちゃった・・・」
「我々を守るのに仕方がなかったんだろ!?」
「ハァ・・・、結局、皆を守りきる・・・事ができな・・・いから・・・」

ティリカは苦しそうに喋り続ける
それは我々に対しての贖罪のようであった

「だから、ごめ・・・ん・・・なさい・・・」
「いいから、喋るな!!いま傷を治療する!!」

ティリカは首を横に振る

「もう、手遅れ・・・能力を使っても治せないから・・・」
「だからって諦めていいものか!!」

自分はありったけのガーゼを血止めに使い
血の出ている部分を全て止血しようとする

「大・・・石さん・・・、私の代わりに・・・皆を、助け・・・てあげ・・・て・・・」
「ああ、皆も助けるから、だから、まだ死ぬな!!」
「ありが・・・とう・・・、安心・・・できる・・・」

ティリカはにっこりと笑うが、その目からは涙が溢れていた
それを見た自分はいつの間にか一緒に涙を流していた

「あれ・・・、なんで・・・涙が・・・、安心した・・・せいかな・・・」
「ああ、安心させてやるから、だから!!皆、ありったけの治療道具を用意するんだ!!」

私が叫ぶと皆で治療できるものは何でも集めた
薬草や民間療法、やれることは全部した
だが、血は止まることなく流れ続けていた

「そろそろ・・・、寝ていいかな・・・、眠くなってきちゃった・・・」
「ダメだ、まだ終わってないだろ!!寝るな!!」
「ありがとね・・・、良かったよ・・・あなた達に会え・・・て・・・」

ティリカはゆっくりと目を閉じる
口からは息をしていない、心臓も動いていない
今、目の前で少女の命は散ったのだ

「ティリカ・・・」

自分を含む全ての人は涙していた
敵である我々を親身になって助け、ここまで導いてきた彼女を
まだ、幼くして散ったこの命を皆が惜しんで泣いている

体はまだ温かい、その死に顔は安らかで本当にただ眠っているように見える

「忘れない、絶対に生きて、忘れるものか・・・」

心に決めた事、ティリカが救ってくれた命、
死ねない、生き抜く、例え何があろうとも
それが命に変えて守ってくれたものへの手向けになるのならば・・・

絶対に忘れるものか・・・
ここであった出来事を
出合った人たちの事を
そして、彼女達のことを・・・

ウタが聞こえる
悲しみを歌うウタ
風にのり、大地を駆け
全てのモノへと伝えよう

それを忘れることのないよう、カナシミノウタは歌い続ける
by meruchan0214 | 2006-04-24 00:31 | カナシミノウタ


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