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知らぬは人の為 1

妹は小さいときから体が弱かった
しかも、成長していくにつれて心臓の病気が悪化している
このままではそう遠くない日に妹が死んでしまう

ドナーが現れればいいのだが・・・
ただ、その祈りもむなしく月日だけが流れていた

「皐月、元気にしてる?」
「あ、お姉ちゃん、うん今日は大分体の調子がいいの」

病院の部屋に居る二人の姉妹、曽根原 弥生と皐月
皐月は小さい頃から心臓に病をかかえており、一年のほとんどを病院で過ごしていた
最近はとわに体が弱ってきており、ほとんど病室からでることもない

「そっか、でも辛くなったらすぐに言うんだよ?」
「大丈夫だよ、お姉ちゃん。あ、そうだたまには外に出てみたいな」

妹の望む事はできる限りかなえてやりたい
自分ができることはたかが知れている、ドナーも海外に行かなければいけない
しかし、妹に合う心臓があるかどうか、それもまた別の話である

「分かった、先生に許可取ってくるから待ってて」
「は~い」

本当に素直でいい子なのに、何故皐月ばかりこんな目に遭わなければいけないのだろう
少しでも苦しみを変わってあげられたらと思っているが、変わってあげられない

「皐月はちゃんと学校の勉強している?」
「うん、大丈夫だよ」

皐月は体が弱い為ほとんど病院から出られない
その為に家庭教師を雇い、学校でやっている授業を病室で受けていた
もちろん、これは皐月の意志でもあった

「う~ん、気持ちいい」

弥生に手を引かれながら歩く皐月
そのゆったりとした歩調はまるで老人のようであるが、それが彼女の精一杯なのだ

「本当は色々なところに連れてあげられたらいいんだけど」
「外に出られるだけでも十分だよ、外の景色ってこんなのだって実感できるし」

こんな重い病気を持っていながらも何一つ苦しいとも言わない
一番辛いのは本人だということは皆が知っている

「こほ、こほ」
「大丈夫!?」

皐月が軽く咳をすると慌てて弥生は心配する

「大丈夫、久しぶりに体を動かしたから」
「無理しないでね、私がちゃんと見てるから」
「ありがとう、お姉ちゃん」

一通り病院の庭を歩き、病室へと戻る
弥生にとって皐月の見舞いに来ると言う事は既に日課になっている
当然、父や母も頻繁にはやってくる、皐月はそれがとても嬉しかった反面、自分がこんな体だからと悲しくもあった

「後でお父さんもお母さんも来るからね」
「うん、お姉ちゃん、毎日来てくれるけど、大丈夫なの?」
「かわいい妹の為ならたとえ火の中水の中よ、皐月は私の妹なんだから」

昔は妹に父や母を取られていると思っていた
だけど、年月が経つにつれて、皐月の辛さを身に染みて分かってきた
それが今の弥生を作っている要因でもあった

「ちゃんと、先生の言う事は聞くのよ?」
「は~い」

いつも通りのことを済ませ、弥生は家へと帰る
後悔した事は一度も無い、ただ皐月には元気になってほしい、ただそれだけだった
by meruchan0214 | 2006-12-10 23:28 | 短編小説


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