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misson4 護る力

いつ襲ってくるか分からない敵。
勝ち目があるのかも分からない。
自分に戦う力があるのならば、それを奮わないのが罪なのか。

恐怖が体を支配し、戦うことを恐れる。
死を恐れているのではない。
自分がやろうとしていることを恐れている。

人を殺すと言うこと、未来を奪うと言うこと。
だけど、戦わなければ自分たちの未来が消える。
どうすれば、どうすればいいのか。

「はっ!!」

夜、寝苦しくて目が覚めるアリシア。
ウロボロスでは地球と同じように周期的に朝から夜までを繰り返す。
できるだけ、自然にそれがウロボロスだった。

「まだ、夜か・・・」

辺りは静まり返っている。
ウロボロスでは夜とは言っても、他はどうであるかは分からない。
事実、家にいるのはアリシアだけで両親は家にいなかった。

「お父さんとお母さんは・・・軍部の方か・・・」

一人だと言うことをとても寂しく感じたのは久しぶりだった。
誰かに傍にいてほしいと思っても誰もいない。
そんな孤独感がアリシアをより不安にさせていた。

眠気が覚めてしまったアリシアはとりあえず街に出ることにする。
地球の時間で言うならば、今は午前3時、真夜中だ。

「ふぅ・・・」

アリシアは公園の辺りを一人で歩いている。
水の流れる音と木々の揺れる音が音楽を奏でているようだった。

「ん?」

アリシアは歩くのを止める。

「子供の声がする?」

耳を澄ませて聞いてみると、確かに子供がはしゃいでいるような声がする。
こんな時間にどうしてなのかは分からない、けれど気になったアリシアは声のする方角へと向かった。

公園の噴水に小さな女の子が二人遊んでいた。
こんな時間なのにそんなことを感じさせないくらいに楽しんでいる。
しかし、アリシアは遊んでいる子供に違和感を感じた。
見えているのその場にはいない、幻影のようだった。

「子供がこんな時間になにしてるの?」

こんな時間まで遊んでいるということを黙って見過ごすわけにもいかず、声をかける。
しかし、二人の女の子はキョトンとした顔で何で遊んじゃいけないのか分からない顔つきだ。

「だって、こういう時じゃないと遊べないんだもん」
「普段は遊ぶ機会がほとんどないですから」

双子のように見える女の子、一人はワンパク盛りでもう一人は大人びて見える。
顔つきはそっくりだが、その印象のせいかはっきりと区別がつく。

「いつもは何してるの?」
「お母さんと一緒に居るの」
「お母さんと一緒って・・・、お母さんは何してるの?」

いまいち会話の趣旨が掴めないアリシア。
どこの子供か聞こうと思ってあれこれと聞いてみる。

「お母さんの名前は?」
「リシェル、リシェル・エル・ビュー」
「り・・・しぇる・・・?」

リシェルの子供だと言う彼女達、まさかあのリシェルの子供とは思えなかった。

「リシェルさん、リシェルさんってもしかしてこのウロボロスで一番偉い人?」
「うん、そう言ってたよ」

やっぱり、そう思ったアリシアだが、明らかにおかしい事に気がついた。
リシェルがまともに生きていたのはずっと昔の話だ。
子供が今もこんな姿でいるはずがないということ。

「お母さんは大変だから、私達が助けてあげないといけないんです」
「うんうん」

しかし、リシェルがやってきた時は一人だった。
彼女達が居る雰囲気はどこにも無かった。

「ん・・・」

アリシアは不意に嫌な気配を感じ取った。
それは二人の子供も感じ取ったみたいだった。
子供たちは顔を見合わせて頷くと、彼女らの姿が薄くなっていく。

「え、消えた・・・?」

まるで最初から居なかったかのようにアリシアだけが残った。
その次の瞬間、警報が鳴り響いた。

「また、来たんだ・・・」

アリシアは家から軍部へと向かった。
戦うつもりはないが、足が勝手に行ってしまうのだ。
ブリッジに着くと、すでにみんな集まっていた。
だが、いつもと様子が違う。

「どうしたんですか?」

アリシアが聞くと、ジョニカが教えてくれる。

「相手が話し合いをしたいっていうのさ」
「話し合いって、あの戦った相手ですか?」
「そういうことだ」

しかし、アリシアの感じた気配はこんなことではなかった。
もっと黒く嫌な気分になる、そんな気配だった。

「とにかく、話をしてみないことにはね、アコナ、同席してもらえる?」
「わかりました」
「フリスさんとジョニカは付近を警戒してもらえる?」
「了解しました」

相手の艦は攻撃をしないという意思表示をしながら、こちらに近づいてくる。
アリシアは感じた気配とは違う、気配を感じていた。
リシェルはアリシアの感じ取ったことを察したのか、アリシアにも一緒に来るか聞いた。

「え、私なんかが?」
「大丈夫よ、話し合いにいくだけだから」

アリシアは少し迷ったが興味が勝ったらしく、リシェルの後をついていく。
入港した敵艦から、人影らしきものが降りてきた。
その相手は人間とほぼ変わらぬ風貌の男、着ているものがやや違う程度であった。

「はじめまして」

男はリシェルの前に立ち、ニコリと笑いながら話した。
穏やかな雰囲気を持っており、敵とは思えなかった。

「はじめまして、こちらの言葉が通じそうで何よりです」
「ははは、翻訳する装置を使っていますからね」
「なるほどね、私の名前はリシェルと申します」
「私はザムレイズのステイルと申します。以後お見知りおきを」
「それで、私達に何か御用でしょうか?」

リシェルは相手の出方を伺っている、人のよさそうとは言え、油断はできないということだろう。

「単刀直入に言いましょう、休戦をいたしませんか?」
「休戦を、貴方方から仕掛けてきたのに?」
「あれは私達全ての本位ではありません」
「その証拠は?」

リシェルは全くと言っていいほど信用をしていないみたいだった。
当然と言えば当然だ、アリシアはただリシェルと相手のやりとりを見ている。

「我々は信用されていないみたいですね」
「それはお互い様だと思いますけど?」

そう言うとステイルは少し笑ってみせた。

「なるほど、あの人の言っていた通りの人ですね」
「・・・」
「勘違いなさらないように言いますが、私達は少なくとも私の指揮する艦は貴方方と戦うつもりはありません」
「それで、休戦と言っても貴方達だけではないのでしょう?」
「確かに私も軍人ですし、私が指揮しているのはこの艦だけですが・・・」

アリシアはステイルという人間は悪い奴ではないと感じていた。
彼の発している雰囲気はどちらかというと、リシェルやジョニカに似ている。
寧ろ気になっていたのは、この艦以外にこの宙域に嫌な気配を感じることだった。

「残念ながら、今の我々は貴方方の星を言葉を借りて言うならば植民地にしようとしています」
「やっぱりね、予想はしていたけれど」
「ですが、私はそうではいけないと思う。あの人は我々の未来の為だと言うが、そんな良いモノではない自分の復讐の為に我々を使おうとしている」
「貴方は私達とどうあるべきだと?」
「協力し合える、彼の技術は我々の技術を大きくしました、ならば逆もあるはずです」

ステイルの言う言葉は確かにそうであった。
未知の文明の科学というのは大いに魅力的だ。
先の戦闘でも似て非なるモノが存在していた。
それがもしもお互いに共通できるモノがあったとしたら、お互いに伸ばせあえたら。
アリシアはそんなことができたらいいだろうな、と思っていた。

リシェルも興味深そうにその話は聞いていた。

「我々だけでは、自分達の軍を止めることはできません。だからこそ貴方達の協力が必要なのです」
「貴方の言いたい事は分かりました、ですが、具体的にどうしろと?」
「貴方達から、休戦を申し出てもらいたいのです」

ステイルがそれ以上言う前にリシェルが答える。

「残念だけど、それはできません」
「何故ですか?」
「今の状態で休戦を申し込んだら、相手の言い様にしなくてはなりません。それは全体の意思としてもありえません」
「確かにそうかもしれない、ですが、これ以上の犠牲を出してもいいのですか?」

ステイルの言う事も一理ある、ウロボロスやヴェルゼ、アースラインの被害が大きくなればなるほど不利な条件で停戦しなければいけない。
アリシアはステイル自身は本心で言っているのだろう、と感じ取っていたが、全体の状況がリシェルに頷かせないのだろう。

「貴方の気持ちはありがたいと思います、確かに私達ウロボロスが休戦したとなれば、ヴェルゼやアースラインも休戦するでしょう。被害もさほど大きくないと思えます」
「だったら、休戦に・・・」
「貴方の様な考えを持った方々がもっと増えたら、私達が安心できるようになったらその時は喜んで休戦をいたしましょう」
「・・・分かりました。確かにそういった意味ではまだまだ私の力不足ですね」

ステイルは諦めたようであったが、希望を捨てたわけではなさそうだった。

「あっ」

不意にアリシアが声をあげると、みんながアリシアを注目した。

「来る・・・」

アリシアの言葉にほとんどの人間は意味が分からなかった。
だが、一部の人間には確実に伝わっていた。

「アコナ、機兵の準備を」
「了解しました」
「我々もパワードールの準備だ」
「はっ!!」

ステイルも自らの兵達に指揮をする。
一気に戦場の空気にと場が変わった。

「貴方もろともって所かな」
「小賢しい真似を・・・」

アコナ、フリスはそれぞれ機兵に乗り込んだ。
アリシアはただそれを黙って見ているだけだった。

「ハイシェントの整備は?」
「終わってます、エルブラストも整備終了しました」
「二機のシンクロシステムをMAXまで引き上げておいて」
「シンクロシステムはまだ完全に完成していません、オートで検証通りの性能を発揮するかどうか・・・」

リシェルは少し悔しそうな顔をしているが、それでも使うしかない。
それを見ていたアリシアは誰かに言われたわけでもないが自分から動き始めていた。

「オートでって事はマニュアルならば検証通りに動くということですよね?」
「確かにその通りだけど・・・」
「私に乗らせてください、お願いします」

アリシアはリシェルに頭を下げて頼み込む。

「いくら、フリスさんとアコナさんの子供とは言っても実戦経験のない・・・」
「分かったわ」

整備兵を黙らせてリシェルはアリシアが機兵に乗ることを了承した。

「アリシアちゃんはハイシェントに乗って、私がエルブラストに乗るから」
「分かりました」
「誰か、アリシアちゃ・・・、アリシアに合うパイロットスーツを」
「は、はい」

リシェルに言われて周りの人間は慌ててアリシアに機兵へ乗せる準備をする。

「もう、子ども扱いしないからね」

トンと肩を叩かれるアリシア、たったそれだけだけど今のアリシアにとってはとてもうれしいことだった。

トクン・・・

心臓が高鳴っている。
自分で決めた事と言ってもやっぱり緊張するし、恐怖も感じる。

「心配しないで、お姉ちゃん」

ハイシェントの操縦席に座るとどこからともなく声が聞こえた。
聞いたことのある声、公園であった少女の一人の声だった。

「お姉ちゃんなら、大丈夫。お母さんも、ナミアも私も手伝うから」

語りかけてきたのはハイシェントだった。
その言葉にアリシアの気持ちは落ち着いていった。

「うん、ありがとう」

ふぅっと一呼吸置いてから、操縦桿を握る。

「アリシア、準備はいい?」
「リシェルさん、いつでもどうぞ」

エルブラストが先に格納庫から出撃する。
そして、ハイシェントも続いて出撃する。

「ハイシェント、アリシア。出撃します!!」

これがアリシアの初めての出撃となる。
自分ができるならやるだけやってみよう。
自分には助けてくれる仲間がたくさんいる。

そう思えば護ることに恐怖を感じなかった。
by meruchan0214 | 2007-10-19 21:10 | 守護機兵 ハイシェント2


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