2006年 07月 04日 ( 1 )

ひと時の幸せ 2

あれから1週間が過ぎた
彼女の世話はいつもと違って新鮮だった

「また、逃げようとしないでくださいね」
「分かってるって」

彼女の行動が突発的でいつも驚かされる
この1週間、彼女はあの手この手でこの屋敷から逃げようとした
しかし、手かせが邪魔になっているのかいつも未遂に終わっていた

「ねえ、ナターシャ」
「何でしょうか?」
「最近、やたらと楽しそうだけど良い事でもあった?」

楽しそう、他人から言われたのは初めてだった
そもそも、どういうことが楽しいのか自分でも未だに分からない
だが言われてみればこれが楽しいということなのかもしれない

「別にありませんが」

いつもの調子で答えてしまう
まだ、感情というものをまだ完全に理解していない
私にはどういう言葉で返せばいいかが分からない

「ふ~ん、あ!!」

リーシェ様が急に大声をあげる
何かを指しているみたいだった

「特に何も居ませんが・・・?」

ダッ!!

リーシェ様は廊下から一目散に駆け始める

「全く、私から逃げようなどと・・・」

私は自分の意識を集中させると一気に廊下を駆け抜ける
私は人間ではない、故に人間が私に勝てるはずがない

ガシッ

リーシェ様の首を捕まえた

「イタイ、イタイから、離してよ」
「駄目です、離したらまたすぐ逃げるのでしょう?」
「ちっ、ばれてたか」

私はリーシェ様を持ったまま部屋へとお連れする
捕虜とはいえ世話を預かった身としては、体を大事にしなくてはいけない

「手かせさえなければ・・・」

いつも彼女が言う言葉
何でもその手かせのせいで魔力を封じ込められているらしい

「いくら、屋敷を自由に動けるとはいえ貴方様は捕虜なのですから、それらしくしていてください」
「こんな所で私はただ黙って待ってるわけにはいかないからね」

リーシェ様がここから逃げ出そうと思うにはやはりそれなりの理由があるらしい
まあ、捕まったのだから当たり前と言えば当たり前なのだけど

「彼を止めないと、無駄な血が流れるだけだわ」
「彼とは・・・?」
「ここの公爵よ、貴方の仕えているラヴィル公爵」

彼女はここを抜け出して公爵様の所で何をするつもりなのだろう
止めるということは、何かしらの手段で何かを出来なくさせるということだ

「公爵様は平和を愛しておられます、今も国の平和の為に戦っておられるのです」
「国の平和の為が世の中全ての平和には繋がらないのよ」

彼女の言いたい事は分かる
だが、公爵様の理想をいつも聞いていた私はそれを認めることはできなかった

「彼は確かに平和にしようとしているけど、力だけ。ましてや、私達のような魔族の力をも借りようとしている。それじゃあ、相手国だってなりふり構わなくなるわよ」
「公爵様は今の膠着した戦況を打破するべく、仕方無しにやっておられるのです」
「別に勝つだけが戦じゃないでしょ、私はこの国も相手の国も知ってるけど、話し合えば分かるはずよ」

確かにリーシェ様言う通りなのかもしれない
いや、最初から分かっていた、自分が気付きたくなかっただけなのだ

「と言っても貴方に言っても戦争が終わるわけでもないか・・・」

リーシェ様は不貞腐れたようにベッドに倒れこむ
しかし、彼女はとても不思議な人間だ

眼が見えていないのに、私より色々な事に気が付くし
手かせをされ自由に動かせないにもかかわらず、脱走を試みる
それに暴れれば、多少なりとも私にも傷を負わせることぐらいはできるはず

「リーシェ様、聞いてもよろしいですか?」
「な~に?」
「何故、私達を壊してここから逃げようとはしないのですか?」

リーシェ様は上半身だけ起こした

「ケガを負わせて逃げたら結局変わらないでしょ」
「私は人形ですが?」
「人形でもよ、最初は実際壊してもいいかなと思ったけどね、貴方見ててそう思ったの」

意外な一言、壊してもいいと思っていた人間がどういう心境の変化だったのだろう
よくよく考えてみると、彼女も最初に会った時より確実に私に対して当たり方が優しくなっている

「ん、急に赤くなってどうしたの?」
「そんなことありません」

慌てて否定するが自分でも電気がショートしそうなくらい熱かった
なんで急にこんな風になったのかが分からないが、熱くなっていた

「食事お持ちいたしますので、失礼します」

私は慌てて部屋から飛び出すように出た

ガチャリ

仕事だけはしっかりとこなさなくてはいけない
だけれどこの気持ちは一体何なのか、教えてもらいたかった






一方、残されたリーシェは・・・

「恥ずかしがってたのかな・・・、でも、慌てて出て行った割には仕事はキチッとやってくのね・・・」

慌てて鍵を閉め忘れることに期待していたのだろうか、
がっくしとうなだれていた
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by meruchan0214 | 2006-07-04 19:57 | 短編小説