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10輪 試せる場

魔族討伐隊が編成され、大々的に城を出て行く
アーツは魔族討伐隊からは外されていたために見送るだけであった

「はぁ、父さんの考えている事が分からない」

父親は魔族討伐隊の隊長として、出陣していく
アーツに対しては自分の居ない間のグラディアの守りは頼むとのことだった

「あ~、悩んでも仕方ない、修行だ修行!!」

頭をかきながら部屋を出るアーツ
廊下を歩く度にメイドがアーツに向かって頭を下げている

「アーツ御坊ちゃま、どこかお出かけですか?」
「ああ、ちょっと騎士団で訓練してくる」
「左様でございますか、行ってらっしゃいませ」

アーツは執事と話を終えて、家をでる
外は太陽が明るく良い天気であった

「こんな事言うのも何だけど、事件ないかな・・・」

自分の腕を試したくてしょうがない
騎士団とかそういったものを抜きにして、個人の力を試してみたいのだ

「こんにちは、アーツさん」
「ああ、君は確かアーシャ・・・様か」
「別にいいよ、そんなのつけなくて、堅苦しいだけだから」

先の出来事のあった、村の生き残り今では王位継承者、王女様
だが、今までが今までだったらしく、様付けをされるのを嫌がっている

「それでも、王女様だからね」
「もう、皆そう言って様付けするんだから」

プリプリと怒っている姿は王女らしさは微塵も感じられない
来ている服も一般市民が着るようないたって普通の服である

「それよりも、アーツさん、お話があるんだけど如何?」
「話?」
「単純に言うと、魔物退治なんだけど」
「ああ、なるほどね」

アーツには断る理由は特に無かった
それよりも自分の実力が試せる良い機会だと思ったのだ

「分かりました、どこに行けば?」
「こっちこっち」

アーシャはアーツを案内する
連れて行った先はルティが新しく開いたお店であった

「ここは確か」
「そう、ルティ姉のお店、結構繁盛しているんだから」

アーシャはルティの店へと入っていく
ついでアーツもお店の中へと入っていった

外見もそうだったが、内装もきれいに纏まっていた
派手すぎず、お粗末すぎず、ちょうど良い感じに設定をされていた

「アーツさんですね、この前はどうもありがとうございました」

アーツが中に入るとルティがアーツに気がついて声をかけてきた

「いえ、当然のことをしたまでですから」
「アーシャが連れてきたということはアーツさんも魔物退治に参加されるのですね」
「ええ、そのつもりです」
「それでは、こちらへどうぞ」

ルティはアーツを別の部屋へと案内する
そこは小さな会議室みたいになっており、中にはこの前助けたタキル・ヒュリス、その妹ティリカ・ヒュリス、騎士団に入団したハクガ・レヴォル、そして、父の親友であり今もなお騎士団で動いているヒリウ・ロウコの姿があった

「ヒリウさんもですか・・・」
「アーツか、民の事を思えばこそだよ」
「そうですね」

会議室に集められたのはいかにも曰くつきの面々であった

「皆さん、集まっていただいてありがとうございます」

全員が集まったところで、ルティから説明が入る

「最近、この街の周辺に魔物が目撃されているそうです、幸い街にはまだ被害が出ていませんが、何かある前にこれを討伐してくれとの依頼が来ています」

ルティのお店はただの食堂や酒場だけではなく、こういったモノの依頼の斡旋所としても活動していた

「まだ、私たちも始めて日が浅いので身内に頼む事になりますが、よろしくお願いいたします」

ルティはここに集まった皆に深く頭を下げる
自分の腕が試せる場ができたのはうれしかった
これから自分のできることがどういうことが出来るのかが試せるのが待ち遠しかった
# by meruchan0214 | 2006-09-25 14:42 | 架空世界[フリトアネイス]

勿忘草~ワスレナグサ~ 後編

彼女といる時間がずっと続けばよかった
賢治は夜僅かな時間のみ彼女とすごすのが楽しみだった

だが、彼女は毎日研究され、ひどい扱いを受けている
自分では何かできないのか、悩んでいた

「これしか方法は無い・・・か」

彼女を助け出す唯一の手段
ここの研究所の妖を一斉に開放する事
一人一人の妖を押さえつける事はできても、数多くの妖は抑える事は到底できない

「だけど、俺も殺されるかもな」

正直に言えば、自分も研究所員だ
ここの妖には嫌というほど恨まれているだろう
開放すれば暴れだす妖に殺される可能性の方が高い

「だけれど、彼女をこのままにはできない」

賢治は意を決したようにこの事を紅葉に伝える事にした

「君をここから逃がそうと思う」
「え、どうやってですか?」

これから、賢治のやることをただ黙って聞いている紅葉

「そんなことして、大丈夫なのですか?」
「君をこのままここに居させる訳にはいかない」

紅葉のことを好きになっていた賢治
好きなものの為なら命をかけても惜しくはない

「ありがとうございます、でも、逃げるときは一緒に・・・」
「はは、頑張ってみるよ」

種族を超えた愛、二人は惹かれあい求め合っていた

「私が皆さんに呼びかけます、やる日さえ教えていただければ・・・」
「分かった、また後で来るよ」

こうして賢治は研究所から彼女を逃がす為に動き始めた
ここの人間は恐らく妖によって殺されるであろう
自分もまた生き延びたとしても組織の人間に追われる事となる

だが、彼女を外へと連れ出せるのならば後悔はしなかった

「必ず、君を外の世界に」

そして、研究所がそこからなくなったのは数日後の話であった

紅葉の呼びかけにより、賢治は殺されずには済んだ
だが、その代わりに組織の人間から逃げ続ける日々となってしまった

「紅葉、済まないなこんな自分につき合わせてしまって」
「いいんですよ、私は賢治さんについていこうって決めたのですから」

愛し合う二人、種族なんてものは彼らには関係なかった
逃げ続ける日々が続いたが、二人は幸せだった

「こんなところにも、勿忘草が咲いているな」
「そうですね、あ、勿忘草の花言葉って知っています?」
「私を忘れないで、だろ」
「はい、それもありますけれど、誠の愛って言葉もあるんですよ」
「へぇ、そうなんだ」

二人の時が永遠に続けばいい
たとえ、逃げ続けなければいけない日々だったとしても幸せである
この先も二人で生きていけたら、賢治はそう思っていた
# by meruchan0214 | 2006-09-25 14:12 | 短編小説

Misson29 暗い中で

ウロボロスの独房の中、一般的に罪人が入れられる場所だ
だが、普通の牢屋と違い部屋自体はほかの部屋とさして変わらない
内側から部屋の鍵が開けられないくらいである

生活する分には何ら問題はない空間
リシェル曰く罪人にも人として暮らす権利はあるそうだ

「俺は一体どうすればいいんだ・・・」

レオルは一人部屋の中で考え事をしている
親友であった、フリスやラユが裏切った事
自分が信じていた事、ありとあらゆる事を考えていた

「分からない・・・、フリス、ラユお前たちは何を知っている」

自分の国の事、自分たちの事だけしかしらない
フリスやラユが本当は自分にうそをつくはずもない
彼等が騙されていない事も分かっている

だがそれを認めてしまっては、あの時自分たちがした約束が反故になると思ったのだ

「俺はどうすればいい・・・」

考えれば考えるほど分からなくなってくる
頭の中でグルグル回り、混乱してくる

シュイィィィィン

独房の部屋が開く
そこにはウロボロスの司令官、リシェルの姿があった

「こんにちは、レオルさん」
「一体何のようだ」

ここ毎日のようにレオルの所へ通っているリシェル
話す事は決まって、自分たちの仲間にならないかということ

「フリスさんもラユさんも貴方と一緒に戦っている事を望んでいます」
「だから、どうしたんだ!!裏切り者達の言葉は聴きたくない!!」

いいたくも無い言葉がつい出てしまう
自分が意固地になっていることも承知はしている

「そうですか、でも、フリスさんやラユさんは自分達の意思でここに居ることを忘れないでくださいね」

リシェルはそれだけ言うと独房を出てしまう

「本当に、本当にヴェルゼはあんなことをしているのか・・・」

以前にリシェルがやってきたときに見せられた映像
あれは確かにヴェルゼの軍人であった
自分たちも何度か見た事がある、軍の上層部であった

「フリス・・・」

レオルはただウロボロスへとくだった仲間達のことを考えていた



「レオルの様子、どうですか?」

フリスが心配した声でリシェルにたずねる

「そうね、大分悩んでいるみたいだったわ、もう少しってところかしら」
「あいつ、あれで頑固ですからね・・・」
「でも、本当はいい人なんでしょう?」
「ええ、なんていっても俺の親友ですから」

フリスはレオルのことを自慢げに話す
それだけ仲が良かったという証でもある

「レオルの事、お願いいたします」

フリスは頭を深々と下げる
一緒に戦ってくれたらどんなに心強いか分からない
自分が背中を預けられる友、早く真実に目覚めてほしかった
# by meruchan0214 | 2006-09-25 11:43 | 守護機兵 ハイシェント

勿忘草~ワスレナグサ~ 中編

あれから私は彼女の歌を毎日のように聞いていた
悲しくも人を引きつける歌声、彼女の歌が私を惹きつけていた

「どうするか・・・」

会って彼女と話してみたい、だが相手は妖、扉を開けた瞬間に自分が殺されるかもしれない
彼女の歌声を扉越しではなく、彼女の前で聞いてみたい
思わぬ葛藤が賢治を襲っていた

「ええい、どうにでもなれ!!」

自分の命は確かに惜しいが、こんな綺麗な歌を歌う彼女の生の声が聞きたい
意を決した彼は彼女のいる部屋の扉を開けてしまった

ガラガラガラガラ

扉が開くと中にいた妖は驚いたようで歌を歌うのをやめてしまう

「すまない、驚かせるつもりはなかったんだ・・・」
「また、私の研究ですか?」
「いや・・・、君の歌声があまりにみ綺麗だったから・・・」

問いかける妖にしどろもどろになりながらも返答する賢治

「貴方は他の人と少し違いますね・・・」
「違わないさ・・・、結局は君にしている事をやっているんだから」

今まで妖の事など全く考えた事は無かった
多分、彼女の歌っている歌を聴くまでは、妖のことなどこれっぽちも同情しなかった
けれど、今は彼女と話していたい、妖であるにもかかわらずである

「でも、やっぱり今は他の方とは違います」
「そ、そうかな・・・」

少しにこやかに笑う彼女、妖とは言ってもほとんど姿は人間と変わらない
その笑顔に賢治は心を奪われた

「もしよかったら、一曲歌ってくれないか?」
「いいですよ」

彼女は賢治の為に歌を歌い始める
その歌声は扉越しで聞くよりもずっと綺麗だった
何より今は悲しみに満ちた声ではなく、聞かせてあげようという想いが篭っていた

「ふぅ・・・、如何でしたか?」
「・・・凄い綺麗だったよ」
「ありがとうございます、久しぶりに気持ちよく歌えました」

今までの悲しみの声はいつの間にかなくなっていた
どうやら賢治の優しさを感じ取ったようであった
賢治のその言葉にただ喜んでいる

「この歌、勿忘草(わすれなぐさ)って言うんです」
「へぇ、そうなんだ、あ、自分の名前まだ言ってなかったな、古山 賢治って言うんだ」
「私の名前は紅葉っていいます」

お互いの自己紹介を終えて、再び世間話に花を咲かせる
人間も妖も結局は一緒なのだ、能力、姿形が違うだけ、本質は何も変わりはしない

「そろそろ、戻らないと、本当は君を逃がしてやりたいんだけど・・・」
「私は大丈夫ですよ、貴方みたいな人も居るのが分かりましたし」
「また、来てもいいかな?」
「ええ、いつでもどうぞ」

二人はまた会う約束をして賢治は研究室へと戻った

それから、賢治は毎夜彼女の部屋で彼女と話し、歌を聴くのが日課になっていった
日を追うごとに彼女へ会いたいという気持ちは強くなり、それが愛情へと変わるにはそう日はかからなかった
だが、自分には彼女を解放してあげることはできない
できるとすれば、ここに捕まっている彼女と同じ妖のみなのだ

「いったいどうすれば・・・」

彼は何とかして紅葉を助けたかった、だがその術が見つからず日にちだけが過ぎていった
# by meruchan0214 | 2006-09-24 22:00 | 短編小説

勿忘草~ワスレナグサ~ 前編

勿忘草(ワスレナグサ)

・紫(むらさき)科。
・学名 Myosotis alpestris
Myosotis : ワスレナグサ属
alpestris : 亜高山の,草本帯の
Myosotis(ミオソティス)はギリシャ語の「myos(はつか鼠)+ otis(耳)」が語源。
葉が短くて柔らかいことに由来。

・ヨーロッパ原産。
・春から夏にかけて青色のかわいらしい花が咲く。5弁花。
・「忘れ名草」とも書く。

・別名 「フォーゲットミーノット」 forget-me-not

ドイツの伝説で、ドナウ川の岸に咲くこの花を恋人ベルタに贈ろうとして、
誤って川に落ちて死んでしまった騎士ルドルフの物語からきている。
その後ベルタはその言葉を忘れず、この花を一生髪に飾り続けた。

花言葉 「私を忘れないで」 「真実の友情」 「誠の愛」







それは、丁度春から夏へと移っていく頃であった
とある研究所では盛んに妖の研究が進められていた
人間には無い能力を持つ妖、その力の元を解明する為の機関であった

「今日も研究漬けの毎日か・・・」

賢治は机から顔を上げると、いすにもつれかかり、大きな伸びをする

「こんな研究が何の役に立つのだか・・・」

自分自身彼らを調べてみたところでどう利用するのかがわからない
確かに我々人間とは異なる力を持っているが、それは種族的に違うのだから当たり前のことだ

「さて、今日も徹夜かな・・・」

賢治は再び机に向かって研究を始める

ラー・・・ラー・・・

不意にどこからか歌声が聞こえてきた
途切れて聞こえては来るもののそれは悲しみにあふれていた

「誰だ、こんな時間に歌っているのは」

研究所員がこの深夜に歌っている事はありえないが、実際に声は聞こえてくる
気になった賢治はその声の場所まで行ってみる事にした

ラーラララーラー

近づくにつれてはっきりと言葉が分かってくる
とても綺麗で美しい歌声であるが、その声は悲しみに満ちている

「ここか・・・」

賢治がやってきたのは妖を捕らえてある部屋の一つであった
モニターで中の様子を見てみると、中で一人の女性の妖が歌っていた
外見はほとんど我々人間とは変わらない、違う部分をあげるなら、手や足の節々にヒレがあることぐらいだろうか

「こんな綺麗な歌で歌えるのも彼らの能力なんだろうか・・・」

賢治はずっとその声を聴いていた
一瞬でその声に魅了されてしまったのだ
ただ、悲しみの声でしか歌われない歌
賢治にはそれだけが悔やまれる事であった
# by meruchan0214 | 2006-09-24 00:05 | 短編小説